くろねこ

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ある日 私は 図書室にいた。 カラフルな絵本を物色しながら、帰宅後に母親に語る戯言(クラスの友達と遊んだ思い出)を考えていた。 このころは、私の背丈を越える本棚や、籠もった香りが私の精神安定剤になっていた。 新たな棚に手を伸ばそうとした時、黄土色と緑色の中間色が2つ、私と目を合わせる。隠されたように置かれたそれを、私は引きだした。 『黒猫』 漢字は読めなくても、表紙からだいたい意味がわかった。 男は、動物好きだった。 とりわけ黒い猫を溺愛していた。 しかし、異常な愛と酒乱により、ついに黒猫を絞殺した。 やがて男は黒い野良猫を引き取った。 しばらくは野良猫を可愛がったが、黒猫の胸に絞首台のような模様が浮き出た。 男は再び猫を殺そうとしたが、止めに入った妻を殺してしまう。 男は、妻を壁の中に隠した。 数日後、警察が捜索にやってきた。 部屋を捜査中、壁から猫の鳴き声が聞こえる。 警察が壁を壊すと、妻の遺体の上に黒猫が座っていた。 男は絞首台に送られた。 年季が入ったページを、私は吸い込まれるようにめくっていく。 こんな残酷な物語が子供の目に触れて良いものか。 これまでに感じたことのない、底なしの恐ろしさと、上回って絡みつく魅力に、私の心と体は支配されていった。 猫は愛されていた。でも殺された。 男は猫を愛していたはずだ。でも殺した。 腕にうっすら残る傷跡を凝視する。 『あなたのためだから』 母はいつもそう言った。どんなに優しい言葉をかけられても、その表情は数日のうちにまた曇る。 本を盗み出した私は、とんでもない背徳感に満たされたまま走った。
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