魔法猫のオシマくん!

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 ***  事件は既に発生していたようだった。マンションの前で、散歩中の犬を連れた中年女性二人が言い争っているのである。正確には、トイプードルを連れた女性がほぼ一方的にパグを連れた女性に食ってかかっているのだ。 「んまあああああああ!よ、よりにもよって、猫も可愛いですね、なんて!貴女狂ってるわ、犬を飼う人間としてあってはならないことだわ!」  トイプーを連れたもじゃもじゃ頭をした恰幅のいい女性が叫ぶ。 「いいですこと、高橋さん!この世の中に、犬ほど素晴らしい生き物はいないんでございますの!飼い主に従順、名前を呼べばすぐ飛んでくる、猫と違って棚の上や机の上に安易に乗っかったりもしない!何より可愛い!猫なんかよりずーっと可愛い!貴女もそのパグちゃんは世界で一番可愛いと思いますでしょ!?」 「い、いやそれはそうですけど!落ち着いてください、山田さん。犬も可愛いけど、猫も可愛いですって言っただけじゃないですか」 「お黙り、猫派におもねる裏切り者め!貴女は我が“わんダフル同盟”でたっぷり犬の素晴らしさを教えて差し上げなければならないようね……!みっちり二時間、大型犬から小型犬まで可愛らしさ満載のAV(アニマルビデオ)漬けにして差し上げるわ!」 「や、やめて山田さん!そんなの(幸せすぎて)私死んじゃう!」  頬を紅潮させ、悲鳴を上げるパグを連れた高橋という主婦。それを見て、さらに言い募るトイプーを連れた山田という主婦。  大変だ、大ピンチだ。俺は慌てて、傍で呆然と座り込んでいるトイプーに事情聴取をした。 「おいお前ら!お前らの飼い主どうなっちまったんだ!?」 「……僕が訊きたいっす」  茶色のトイプーは、呆れ果てた様子で俺に告げた。 「いつも通りご近所の主婦さんと二時間ばかり井戸端会議してたら突然豹変しちまって。どうしたんですかね、うちの飼い主……」  いや、ここで二時間も井戸端会議してるのもどうなんだよ、と心の中でつっこむ俺。  ふよふよふよ、とそんな俺の真後ろにモッチタリアが出現する。どうやら、モッチの姿は俺にしか見えていないらしい。 「やっぱりそうだ。わんダフル星人の攻撃を受けると、そいつは犬大好き過激派になっちゃうんだ!このままでは、そこの高橋って主婦も連れ去られて、わんダフル星人に洗脳されて仲間にされちゃうよ!」 「犬過激派にされるとどうなるんだ!?」 「ツイッターで猫派の人にひたすら犬の写真送りつけたり、ユーチューブで猫派の動画に荒らしコメントを書きこみまくったり、家で犬の形のおにぎりやクッキーばっかり作るようになったり、犬の可愛いポスターを町中に無許可で貼りまくったり、猫派を拉致監禁して犬の可愛いもふもふ動画をえんえんと見せつけて犬派に転向させようとするようになるんだよ!」
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