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「良くも悪くも有名だな、あの編入生」
昼食を取りながら続きを促すと、口の中のものを飲みこんでから答えが返る。
「二年生になってからの中途編入者で、それが無爵位の一般人だっていうんだから目立つだろ。箔をつけるためだけに放り込まれる奴とはわけが違う。モノホンの特待生だっていうのは、このまえの成績発表でよくわかるな」
「ああ、初めて誰かに負けたよ」
「そういうことを素で言うんだから、おまえは本当に嫌な奴だよ」
「試合で負け知らずの奴に言われたくないぞ、マックス」
王宮の精鋭たる近衛騎士団から打診を受け、ほぼ内定している友人に言い返すと、男は不遜に笑ってみせる。
「それで、どうするんだ。当然、頂点は奪い返すんだろ?」
「僕としてはこだわりはないんだけど、何故か周囲がうるさいんだよね」
「第一としては、第三に負けたくないんだろうな」
「自分たちでやってほしいよ」
「それができないから、おまえに期待してるんだろ」
言い置いて立ち上がる。
どんなときにも鍛錬を欠かさないマックスは、昼休憩のわずかな時間ですら体力向上に努めている。彼が上位であり続けながら疎まれない理由は、努力が目に見えてわかるからなのだろう。
去っていく後ろ姿を見送りながら、ミハイルはスプーンを弄び考える。
一位であることが当たり前で、周囲もいつしかそれを当然のことと受け入れるようになった。競争相手は少しずつ減っていき、いまでは「あいつには勝てるわけがない」と最初から諦められている節がある。
ミハイルとしては、普通にしているつもりだ。現状に甘んじて勉学をおろそかにしているつもりはないし、座学だけではなく実践魔法も欠かさない。
ただ、こちらに関していえば、生まれは関係しているかもしれないと思う。
父も従兄も神官だ。幼いころから神殿に出入りしているし、知り合いも多いし、これ学生にやらせていいの? という仕事も手伝っている。
なにをいわんや、マックスにどうこう言える立場ではない。ミハイルだって神官となるのはもう決定事項だ。
高等科二年ともなれば、将来の道は決まっている者も多い。そのためのクラス分けでもある。
あの編入生はどうなのだろう。特待生ということは、誰かの推薦があったということだし、どこかのお嬢様が在籍資格を得るためだけに入ってきたというわけでもなさそうだ。
(調べてみようか)
ふと、そんなことを考えてしまったのは、何故だろう。
きっと暇だったからだと結論づけたが、そのときにはすでに彼女に興味を抱いていたのかもしれない。
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