神官候補生の好敵手

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 やはり熱を持っているらしく、手のひらがじわりと熱くなった。そのまま治癒術を流しこみながら、つい小言を口にする。 「見せしめのような真似は好きじゃない。痛みは痛みだ。我慢する必要はないし、取り除けるものであれば取り除いたほうがいいと思う。早いほうがいい。取り返しがつかなくなるまえに治療を――」  説教めいたことを言っても反論は返ってこない。  言うべきことは言うタイプだと思っていたが違っただろうかと顔を見ると、メイの瞳はこちらを捕えていなかった。やや下向きで、ともすれば俯こうとする顔を引き上げると、ようやく視線が絡んだ。  眼鏡のレンズ越しにあるのは、薄紫の瞳。あまり見ない色合いに、つい覗きこんでしまう。  するとぎゅっと瞼が閉じられて、その色が隠された。  名残惜しく思っていると、メイが絞り出すように告げる。 「あ、の、じぶんで、できます、ので」  もうだいじょうぶです。  もごもごと呟き、腫らしていなかったほうの頬も含めて赤くなっていることに気づいたとき、ミハイルはようやく今の状況を意識する。  己の右手で彼女の頬を包み、顔を近づけて、相手が目を閉じているこの状況は。 「いや、違うんだ、つまり、その、これはあまりにも君が痛そうだったからであって、なにもやましい気持ちがあったわけではなくて」 「わかってますわかってますわかってます」  慌てて手を外して万歳のポーズ。身の潔白を証明しはじめるミハイルに、メイもまた首をぶんぶん振りながら頷く。  取り乱すことなどなさそうに見えた彼女だが、意外と子どもっぽい部分もあるのだと気づき、印象が変わった。それはおそらく、化粧っ気のなさも影響しているのだろうが。  上位階級に属する令嬢たちは、在学中であっても着飾ることに余念がない。己を良く見せることに注力しているし、彼女たちは自身が商品のようなものなのだ。  美醜は縁談にも影響するだろうし、女性社会においてはなによりも大切なこと。二歳上の姉を見ているとよくわかる。楚々とした美人として有名な姉の素の姿は、決して漏らしてはいけない秘密だ。  メイ・ジョーンズは見てのとおり、髪はボサボサだし、やぼったい眼鏡をかけているし、服装に気を使っているようにも思えないし、化粧もしていない。  それでもさっき触れた肌はもちもちしていたし、眼鏡に隠れた瞳は類を見ないほど美しい色を宿している。髪さえ整えれば、もう少し「見られる」ようになるのではないかと思うが、余計なお世話というものだろうか。
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