神官候補生の好敵手

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 メイとの時間はとても有意義である。  クラスが違うと授業内容も異なるようで、第三クラスの内容はミハイルにとっては新鮮なものだったのだ。  第一クラスは高度な魔法を扱うことを主としており、必然的に一度に使う魔力量も大きなものとなる。  しかし第三クラスでは、少ない魔力で効率的に最小限度の効果を出すことを正としており、微細なコントロールが必要となってくるのだ。  メイの魔力量を考えると第一クラスの生徒に引けを取らないのに、何故か第三クラスに振り分けられている。 「なに言ってるの、当然じゃない。私はただの一般人だもの。お貴族さまが蠢く教室になんて、むしろ入りたくないわ」 「……ごめん」 「貴方が謝ることじゃないでしょうに」 「無神経なことを言ったよ。たしかにこれは住み分けなんだろう。君たちを傷つけないための選別だ」  この国の貴族制度は大きく変わったとされているが、平民との差は未だ埋まっていない。広く門戸を開いている学院ではあるが、第一クラスに属するのは貴族ばかりなのも正されないままだ。  十数年前に起こった内乱。  王弟である公爵家を旗頭にした騒動によって、国内貴族は揺らいだ。  爵位を剥奪された家も多く、爵位そのものの撤廃を求める声も上がった。ひいては王制自体にも言及され、政局は大きく荒れたという。  まだ子どもだったミハイルに詳しいことはわからないけれど、神官職も槍玉にあげられたらしい。  職に就くのは貴族であることが暗黙の了解となっており、有事の際には身分の高い者が優先される。内乱では多くの死傷者が出たが、地方はおざなりにされてしまい、犠牲者の多くはそちらだった。  治癒の魔法、回復を助ける祈り、死者への弔いなど。神官がなすべき仕事は多い。  人出が足りなかったことも確かだが、都に住む貴族たちが自分たちを優先させたことが非難され、神官嫌いが加速したのだ。  そういえばメイもまた、神官を良く思っていない節があったか。  共に勉強をするようになって、もう数ヶ月。遠慮がちだった言葉遣いも、やっと緩んできたところだ。すっかり仲良くなったような気がしていたが、自分と彼女のあいだにはやはり越えられない何かがあるのだとわかり、お腹のあたりが重くなる。  見るからに落ち込んだ様子のミハイルを見て、メイのほうが根を上げた。 「貴方って本当に変なひとよね。私、かなり嫌な態度を取った自覚はあるのに一緒に勉強しようとか言い出すし、貴族さまに名前(ファーストネーム)で呼べと言われるのは初めてよ」 「君の初めてが僕で嬉しいよ。僕も女の子の友達は君が初めてだし、肩を並べる相手も君が初めてだよ。お揃いだ。ねえ、そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃない?」  微かな不満を乗せて言うと、メイが肩を落とす。 「あああ、もう。わかったわよ! ミハイル。これでいい?」 「ありがとう、嬉しいよメイ」 「……ちょっと反則じゃない? その顔」 「僕の顔になにかついてる?」 「やっぱりすっごく変よ、貴方」
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