神官候補生の好敵手

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 神童と謳われ、十七歳に至るまで常に優秀であり続けたミハイル・リヒターにとって、それは初めての敗北といえた。  豊富な魔力を持ち、実技座学ともにトップを誇っていた彼がその座を譲り渡した相手は、編入生の女生徒である。  家の仕事を手伝うため、一ヶ月ほど学校を休んでいるあいだに入学した彼女の姿を、じつはまだ見ていない。学ぶクラスが違うためその機会に恵まれなかったのだ。  (くだん)の生徒は、すぐにわかった。渡り廊下を歩いているところで、周囲の生徒が騒いだせいだ。あの(・・)編入生だ、と。  それは、良くない意味での囁きだった。  漂う悪意と好奇心と嘲笑のなか、彼女――メイ・ジョーンズは無造作に伸ばした黒髪をそのままに、まっすぐ前を向いて歩いている。  周囲の声は聞こえていないわけではないだろうに、目もくれない。その態度がまた反感を買っているであろうことを本人はわかっているのか否か。  変わった子だな、というのが、ミハイルの第一印象だ。  この王立学院は特権階級者に連なる者が多く属している。寄付金の多くが国内貴族からのもので、自身が出身者という者も多い、歴史ある場所ということもあるだろう。  ミハイルもそのひとりで、リヒター伯爵家は代々神官を務める名家として知られており、親族の大半が卒業生である。  高等科は三クラスに分かれており、ミハイルは第一クラス。頭脳に重きを置いたプログラムが組まれている。対極にあるのが第二クラスで、こちらは肉体クラス。武器を取って戦う仕事に向けられている。  そして、第三クラスは文武平等という名の、どちらにも特化しきれていない生徒を集めたクラス。例の編入生はこのクラスだと、友人から聞いた。
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