生還

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「あ、冴木さん、分かりますか?冴木さん」 選択の後の最初の景色は私を覗き込む知らない女性の顔で、彼女が被るナース帽の奥に涙ぐむ母の顔が見受けられ、さっきいた白の世界では無い事を実感した。 天井に視線を合わせると鼻や口の辺りに違和感があり、意識を集中すると包帯らしき物の端っこが見切れている。 手で触って確かめようと思った途端、火花が散る様な激痛が、顔面と下腹部に走り、 「痛っ」 と声を上げてしまった。 バタバタと周囲が慌しくなり、程なく担当医らしき人が訪れて、状況の説明があった。 精神が極限状態だった商社マンくんは、私を刺した後手持ちの包丁で顔を削いで持ち帰ろうとしたようで、何度も斬りつけた痕跡があってかなりぐちゃぐちゃになっていたらしく、整形外科の技術を結集してもキチッと元の状態というのは難しいらしい。 ついでに左目は視神経をやられていて、視力の回復は見込めないとの事。 成る程、私が異性を嗜むために対戦相手を募る際、一番効力を発揮してくれていた顔面の良さが引換の対象物という事で間違いないようだ。 母は何も言わずに私の隣に来て手を握り只々泣いていた。
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