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甲子園を目指すためのステップアップとして入団したリトルリーグ。
どうやら私は他の人に比べて運動神経と目が良かったらしい。面白いくらいに上達して、男子に混ざって白球を追いかけていた。
陸とも毎日キャッチボールをして、野球一色の日々。
それをよく思わなかったのはお母さんだ。どうせすぐ飽きると高を括っていたから、焦ったのだろう。
女の子だから陸と一緒に甲子園に行けないのだと。
今は上手くいっていても、これから先女の子は体格差で男の子に敵わなくなるのだと。
女の子だから。
口を開く度に黒いものを吐きかけてくる。
クラスの子にも、男の子とばかりいて男好きだとか。おかしいとか。影で言われたり、面と向かって言われたり。
好きな事をして何が悪いのか分からなかった。交換ノートも好きなキャラクターの話も。全然興味なくて、それよりも陸と野球をしていたかった。
どうして。
ぐるぐると渦巻いて煮詰まった鬱憤を晴らすために更に野球に打ち込んだ。
悔しかった。
体格差があったとしても戦えるんだって証明したくて。女の子だから、なんて言葉を撤回させてやりたくて。
自分の事で手一杯で気付かなかった体格差で打ちひしがれ、から回っていた陸へと手を伸ばした。
慰める余裕なんて無かったから、「イノシシみたいに突っ走ってるからダメなんだよ」と傷心している人に対してキツすぎる言葉を浴びせた。
何でそんな酷い事を言うんだと訴える、痛ましい表情に。どこかに落としていた余裕を引っ掴んで元の場所へ押し込む。
拳を握りしめ、陸が大好きな海君みたいに笑ってみせた。
「陸、バットを振る時はよぉくボールを見るの。勢いよく振ったって当たらないし、当たったとしてもマグレだよ。だからどんな球がくるか予想して、よぉくボールを見て打つの。体格で勝てないなら頭を使わないと!!」
「……で、でも。それで勝てなかったら?」
か細い声と一緒に日に焼けた頬を涙が落ちる。それを袖で拭ってから、両手で勢いよく陸の頬を挟んだ。
「だったらもっと考えるの! いっぱいいっぱい考えて、死ぬ気で練習すればいい!! 体格差なんてひっくり返せるに決まってるんだからっ!」
そうだ。体格差なんてどうとでもなる。努力さえしていれば。頭さえ使っていれば。きっと。
輝きを取り戻した陸の瞳に映る私の表情は、強い光に歪んで見えなかった。
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