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「天才バッテリーじゃん」
「えっ本物初めて見た!」
集まる視線に居心地が悪くなって、身体を縮こまらせる。
「……あの呼び方恥ずかしいから、本当にやめて欲しい」
「同感」
リトルリーグからシニアリーグに入団して。ありきたりで、かなり恥ずかしい呼び名が付いた。
それが当たり前に呼ばれるくらいには、私達は注目される選手になった。
完璧なコントロールと多彩な球種でバッターを翻弄する天才ピッチャーの私。
大胆不敵なリードでピッチャーの力を最大限引き出す天才キャッチャーの陸。
天才が二人だから、天才バッテリー。
安直すぎるそれに何度頭を抱えたか分からないし、何度赤面した事か。評価される事は嬉しいが、その呼び方は本気で勘弁して欲しい。
「エースが女ってウケるよなぁ!」
「違ぇよ。媚び売ってレギュラーになってんだよ。顔結構良いし、胸あるしさぁ」
「はぁ? ビッチかよ!」
好意的な声の中に混ざる不快な声。
聞き慣れてしまったとは言え、不快な事に変わりはない。内心で溜息を吐いていれば、横で陸が動いた。
瞳孔がこれでもかと開き、器用に片眉を跳ね上げている。ここまで怒りをあらわにする陸を見るのは初めてで。ふらりとそっちへ足を踏み出す陸を止められなかった。それを止めてくれたのはキャプテンだ。
「馬鹿が馬鹿言ってるだけだから放っておけ」
「……納得できません」
食って掛かる陸を宥めて、キャプテンが不自然なくらい薄い唇を吊り上げた。
「ぶん殴ってすっきりするのも悪くないが、俺らも悪い、みたいに言われんのは癪だろ? それなら俺らの野球で磨り潰してやればいいんだよ。……二度とあんな舐めた口叩けねぇ様にな」
漫画でよく聞く殺気とはこの事を言うのかもしれない。夏だと言うのに鳥肌が立った腕を擦って、背筋を伸ばす。
仲間想いのキャプテンだから、仲間を貶されて怒るだろうと思っていたけれど。実際に私のために怒ってくれる所を見ると、ちゃんと仲間だと認識してくれているのだと思えて嬉しくなる。
「……ありがとうございますキャプテン。全打席ホームラン打つつもりでやります」
「つもりじゃなくて打て。俺も打つ。……お前らもやるよなぁ?」
頼もしいキャプテンと賛同する様に盛り上がるチームメイト。
私は本当にいい仲間を持ったと思う。
女だからって差別しないで、同じ選手として見てくれる。それがどれだけ有り難い事なのか、きっと彼らは知らない。
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