わがはいのご主人様

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『……3年前、東京都××区に住む当時15歳の少女が失踪した事件で、少女が20代と見られる男と写っている防犯カメラの映像が発見されました。警察は犯罪に巻き込まれた可能性もあるとみて、再捜査を進めています……お願いだから、早く娘を返して……プツン』  ニュースキャスターの無機質な声と、女の人の悲痛な声が聞こえるテレビを、ご主人様はつまらなそうに消した。 「にゃーん?」  いつも通り甘えた声でご主人様を見上げると、「どうしたの?」と優しく身体を撫でてくれる。  わがはいは「みゃーう」と気持ちよさそうに鳴いた。 「……さっきのってさ、お前のことじゃないよな?」  ご主人様はわがはいを撫でる手を止めることなく呟く。 「にゃう?」  何を言っているのかわからなかった。わがはいはご主人様のねこ、さっきのニュースはどこかの人間の話だ。 「さっきの女の人、お前の母親?」  ご主人様はわがはいの首に巻かれた鈴付きの紐を外しながら聞いてきた。 「……違うよ。さっきの人、ママじゃないもん……多分」  私は首に着いた首輪の跡を指でなぞりながら答える。  もう顔も忘れてしまったけれど、ママは私のことなんて探していないと思う。  夜の仕事をしていたママ。私は無駄にギラギラした場所によく連れて行かれた。  与えられる食事は缶詰かスーパーで半額になった刺身。小さい時はそれが美味しかったけど、少し成長してお肉が食べたいと言えば、安い魚肉ソーセージを投げつけられた。  皮肉なことにママによく似た私の顔は可愛かった。だからママと同じように、家を出て夜の街で自分を売ることにした。 「にゃーんにゃーん」  そんな風によく鳴いていた、ママと同じように。  その時もママは私を止めなかったし、数日帰らなくても心配すらしなかった。  そんなママが3年間帰らない私を待っているとは思えない。  私をここで匿ってくれているご主人様の方が、ずっと私を思ってくれている。 「そう……ならいいんだけど」  ご主人様はまた、わがはいに首輪を着ける。 「にゃん!」  わがはいはご主人様といるのが幸せなのだ。 「みあ、ずっと一緒にいようね……」 「みゃーう!」  わがはいはこれからも、わがはいのご主人様と、幸せな日々を紡いでいく。 [完]
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