死神の鈴

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 人は何かを忘れる生き物である。  それがどんな些細のことでも、自身にとって何より大切な事でも。    忘れたい訳ではない。  もちろん忘れたい事もあるだろう。しかし、 どんなに楽しく、心が動かされる事でも、本人の意志とは関係なく。  思い出したいと思っても思い出せない。  それはまるで自分の無意識が記憶に蓋をしているような感覚。  その蓋を開けようとしても、重たく微動だにしない。  ──ただ。その蓋はほんの小さなきっかけで空けることが出来る。匂いを嗅いだり、音を聴いたり、日常の中の何気ないことでふと思い出すことがある。  思い出すことに関連性は無い。  歯を磨きながら昨日の晩御飯の唐揚げを思い出したり、目の前で人が転んだのを見て提出期限の迫った書類の事を思い出したり。  小さなことで大きな事を思い出したかと思えばその逆も然り。  単純で複雑。矛盾である。  忘れた事を思い出そうとあがく人、その内に思い出すだろうと日常を繰り返す人、忘れようともがく人、なぜ忘れたていたんだと肩を落とす人。    ──今日もどこかで何かを忘れた人がいる。    ──明日もどこかで思い出せた人がいる。  あなたは何を忘れ、思い出すのでしょう。          
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