第十二章

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「本来なら麗華さんと嫁に頼もうかと思ったんだけどな」それはそうだろうな。 「けど、木崎さんが同行するとなるとちょっと問題だな。ここは俺が行くか」 「お兄さんが行っても大丈夫なんですか?」 「まあ。この会社の担当だしな。それに恐らく詳しい話をするのは麗華さんになるだろ?」そこまで言うとお兄さんは言葉を切って、少し考え込み始めた。 「──ああ、でも木崎さんが同行してくれてよかったのか。お役所だもんな、男がついて行ったほうがいいかもしれない」 「どういう意味ですか?」 「お役所なんてどうせ遅れた男社会だからよ。もしかしたら麗華さんが女ってだけで舐めてくるかもしれない。だったら同席するのは嫁より俺のほうがいいなって。少しは牽制できるだろ?」  なるほど。確かにそうかもしれない。 「木崎はなんの役だよ?」清川さんが尋ねた。 「そりゃ麗華さんの秘書しかねえだろ」 「だったら真中さんから貰ったスーツ着て行けよ。その格好で行くなよ」清川さんは何故か俺に真顔で言った。 「もちろんそのつもりです」そう答えたけど、そんなに変なのか? この格好。 「──お待たせ! ささみとキャベツのピリ辛和えともやしのナムル。あとはごぼうと胡桃の西京味噌炒めだよお」  清川さんは「おー!」と声をあげ、待ってましたとばかりに箸を手に取った。今日も美味そう……美味そうだけど 「譲葉、今日はなんだかアッサリ系じゃないか?」 「うん。お兄さんが中性脂肪と尿酸値が高いって聞いたから」 「はあ!?」お兄さんが変な声をあげた。「だ、誰から聞いたの!? そんなこと!」 「多美子さん。奥さんが言ってたって。だから気をつけてあげてねって言われた」 くそう、とお兄さんは呟いた。「俺がキヨと一緒に飲むのを楽しみにしてるって知ってるくせに」 「心配なんだよ」譲葉は笑って台所に戻って行った。「もうすぐ鯖のポン酢南蛮漬けを持って行くから」 「南蛮漬けならいいじゃないですか?」  俺はお兄さんにそう言った。 「俺は霜降り肉とか魚卵が食べたいの!」  うん。それは無理だな。値段的にもここでは無理。 「譲葉チャンのつまみはめっちゃ旨いから」清川さんは慰めるようにそう言った。お兄さんは「そうか?」と元気なく言っていたけれど、すぐに譲葉のつまみのファンになっていた。
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