第七章

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「──飲酒については確かに怒られはするだろうが、だからって捕まるわけじゃねえよ。翔達も警察には呼ばれるだろうが逮捕されるかどうかは分からねえ。今から行ってもいいんだぞ?」清川さんが二人に諭すみたいに話しかけた。 「行かないよ」 「ヤバいクスリなんでしょ? そんなの飲んだなんてわかったら捕まっちゃうもん」  清川さんは黙った。 「捕まるの?」譲葉が口を開いた。 「──分からねえな。騙されたのは事実だが、向こうがなんて言うか分からねえ。自ら口にしたって話になりゃ、ちょっとややこしいな」 「〈鳴門組〉がやりそうなことではありますね」 「まあな。それに何かあったら翔達に罪をおっかぶせる可能性も捨てきれねえ」  だろうな。そのために手伝わせてるんだろう。 「──そういう意味では、警察に行かないでくれてありがとうって礼を言うべきなんだろうな」清川さんはポツリとそう呟いた。  すると二人は何故か嬉しそうな顔をして、清川さんを見た。やっぱ行かないでよかったねって言い合っていた。それはどうなんだろう。何か違う気もする。 「病院は行ったのか?」清川さんがそう聞くと、二人は首を振った。 「ピル飲んでるから平気」 「病気とかあんだろうが」 「あんまり行きたくないんだよね」 「行っとけ。なんかあったら困るだろ?」 「お金ないもん。いろいろ聞かれたら嫌だし」  うーんと清川さんは唸った。確かに説明しづらいことは間違いない。 「彼氏とHしてたらゴムが破れちゃって、それからなんか痛い気がする……とかいうのはどう?」何故か譲葉がそう提案してきた。二人は顔を見合わせて、そういう理由ならいいかとか話し合っていた。譲葉は俺に目配せした。確かにそういう理由は俺たちじゃ思いつかなかっただろう。 「──で、いくら足りない?」清川さんはそう二人に聞いた。そういえばカネもないと言っていたか。 「たぶん二万くらい? 保険証使わないから」実費か。もしかしたらもっとかかるかもしれないな。 「木崎」そう言われて、俺は頷いた。俺はカネを用意すべきなんだろう。流石におろしてこないと持ち合わせはない。ちょっと行ってくると外へ出た。  どう考えてもこのままじゃ彼らはいいように使われる。何かあったら警察に逮捕させる役をさせるつもりだ。まだ一緒になったわけじゃないのに。唇を噛んだ。どうすれば〈鳴門組〉の思い通りにならないようにさせられるんだ? すぐにはいい案は思い浮かばなかった。けれどまずは今やってることをすぐに止める必要がある。それにはどうすればいいんだろう──カネだ。今は出来ることはそれしかなかった。  俺は彼女達に十万ずつ渡した。何かあったら言ってくれ、追加で払うからと伝えた。それから三人組にはその券を売るのをやめろと言った。 「でも……売らねえと怒られるンすよ。今日だって、なあ?」 「そうなんす。最初は伊勢佐木で声をかけてたんすけど、全然集まらなくて。そしたら『横浜駅に行って来い』って言われたんで」 「売れないとぶん殴るって」  俺は深いため息をついた。マジで鳴門組は許せないと思った。けど今すぐに何かできることなんてない。俺はチケットの代金より多めのカネを三人に渡した。 「売れたってことで、カネを渡しておけ。それで当日すっぽかされたってことにすればいい」 「怒られますって」 「そりゃ怒られるだろうけど、カネさえ払っときゃ少しはマシなはずだ。そのイベントって毎日やるわけじゃないだろ?」 「一応週イチってことになってます」 「じゃあ今回はこれで乗り切っておいてくれ。あとは何か考える。とにかく時間をくれ」  ここを突破することを考えなきゃならないし、親父に相談したほうがいいかもしれない。とにかくこの仕事から三人を引き離すことが必要だ。  俺はカラオケと飯代ってことで清川さんにカネを渡して先に出た。もうアパートに戻らなくてはならない。飯の用意をしなくちゃならない。  問題は山積みだ。
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