第七章

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「これってどこでカネになるんですか?」  俺の質問に梨田は目を丸くしたし、郷原は小さく吹き出していた。 「オマエなあ……まあ、いい。教えてやるわ。まず〈イイ女とヤレる〉っていって人を集める。最初にそこでカネを集める。そんでテメエの下の奴らに女を集めさせる。しかもイベントの券を売るから、そこでもカネになる。もし売れなかったらどうせオマエらがカネ払えって言われンだろ? 取りっぱぐれることはねえ。で、女にヤクを盛る。それも多分集めた奴らからカネを取ってるな。で、奴らにもヤクを売ってるはずだ。もしかしたらこっちはシャブかもしれねえな。シャブをキメて犯るのは最高だからな。それでここからは推測だが、ヤラれた女を口止めもしねえで放り出すってことは」梨田はチラリとルームミラーを見た。 「闇か会員制サイトで動画を売ってるでしょうね」郷原は顔色も変えずにそう答えた。梨田は満足そうに頷いた。 「しかもヤラれた女が警察に駆け込んでも、捕まるのはテメエの下のモンだけだ。どう考えても若生は得しかねえわ。アイツ、どれだけ儲けてるンだか」  俺はすぐには梨田の言ったことが分からなかった。だが時間と共にじわじわと理解してきた。それと同時に怒りが湧きあがってくる。あの野郎。ウチの組をどこまで馬鹿にすれば気が済むんだ? 「──おい。そんな殺気立つな。こっちまで感化されるわ。落ち着け」梨田はそう静かに言った。 「まあ、いい。若生を潰すいい機会だ。存分に利用させてもらうぞ」  利用? 何かいい方法でもあるんだろうか? 「とにかくもっと詳細が知りてえ。店の場所もイベントの日時も分かってるんだろ。そこにこっちの人間を潜り込ませるわ。まずは女だな、郷原」 「手配しときます」 「待ってください。ヤクを盛られて、輪姦されるんですよ?」俺は慌てて止めた。 「分かってるわ。それでもヤリてえって女をこっちは用意できるって言ってんだ」そんな女性なんているんだろうか? 「──カネのためなら何でもしたいって女も男もいるってことだ」俺が何も言ってないのに、全て理解しているように郷原が答えた。 「あと情報屋も含めて何人か潜らせられればいいんだが」 「どうでしょうか、女は確実にいけますけど。ちょっと探ってみますか」 「ああ、頼む」 「梨田さん」 「テメエは何もしなくていい。あとはこっちで何とかするから。ああ、イベントの券だけよこせ」梨田は上着の内ポケットから札入れを取り出すと、中から札を抜いて俺の胸元に押し付けた。 「いや、これは困りますって。今回の分は前回の上乗せ分に入ってますから」 「男が一回出したモンを戻せるわけねえだろうが」 「いや、そのまま戻せばいいだけじゃないすか!」俺がそう言って札の束を返そうとすると、脚を思いっきり蹴られた。 「痛っ!」 「ホントにテメエは躾がなってねえなあ。教わらなかったのか?」 「そんなの知りませんて」何故か俺は声が小さくなる。知らないと恥ずかしいことなんだろうか? 「カネはテメエの評価だ。その辺の会社だってそうだろ? 評価されりゃカネが貰える。それと一緒だ」  そういうものなんだろうか? 俺は札の束を握りしめたまま梨田を見つめた。 「──今回のテメエの情報は大した成果だ。上手くいけば若生の〈ヤク〉のシノギをぶっ潰せる。もしかしたらそれ以上の成果もあるかもなあ」梨田はそう言って片方の口角を上げた。見たこともないような悪そうな顔をしていた。 「上手くいくように手配します」 「頼んだぞ、郷原。ああ、今日は美味い酒が飲めそうだ」  梨田は俺を飲みに誘った。けれど俺にはまだまだやることが山積みだし、気を抜いてはいけない。ありがたいが丁重にお断りした。俺の持ってる〈ヤク〉は早々に取引きすることになった。 「──また連絡する。何かあったら今日みたいに連絡してこい」  梨田は去り際そう言い残した。俺は関内で降りると、梨田の車が見えなくなるまで見送った。  やはり〈餅は餅屋〉だった。これでひとつ肩の荷が降りた。
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