羊羹師匠

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先生が煙草を買って来ると言われて出て行かれたのは朝食が済んで直ぐの事。 居間の時計はもうお昼を知らせておりました。 「先生は、何処に行かれたのでしょうか」 白井さんがそう私に訊かれたのはもう八度目です。 「煙草を買いにと出て行かれましたので…」 私も意地悪く、同じ返事を八度返しました。 「一体何処迄煙草を買いに行かれたのでしょうかね…」 白井さんが落ち着かないのも無理はありません。 今日が先生の原稿の締切で、夕方四時には入稿しなければいけない日なのです。 いつも締切の日には白井さんは朝食の時間には来られるのですが、今日は少し遅れてやって来られました。 それが先生に翼を与えたのですね。 白井さんが居ないのを良い事に先生は足取り軽く出て行かれましたので。
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