影と光2

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影と光2

河野あかりに告白された時、彰巳は自身が怪異を宿す以外の全てを打ち明けた。 母親による虐待。 息子より恋人を優先する母親。 母親と恋人の変死。 そのおかげで餓死寸前で救出されたこと。 自分を産んだ母親にすら愛されなかったのに、赤の他人に愛されるわけがないという思い。 だからこそ、結婚する気も、恋人を作る気もないと、彰巳はハッキリとあかりに伝えた。 それでもいいとあかりは言った。 彰巳の傍に居たいとあかりは言った。 彰巳は何度かあかりの影に触れたが、影が教えてくれる本心と、あかりの口にする言葉は、ピタリと一致した。 彰巳とあかりは交際を始めた。 しかし、長期の海外出張をきっかけに、2人はすれ違い始めた。 彰巳のせいだった。 あかりの言葉を信じられない彰巳のせいだった。 影による本心の確認が出来ない彰巳は疑心暗鬼に陥り、そんな彰巳に流石のあかりも堪忍袋の緒が切れて……。 2週間前の電話越しでの喧嘩の後、あかりと連絡が取れないまま、彰巳は帰国した。 帰国の翌日、彰巳はあかりの部屋を訪れた。 しかし、何度インターホンを鳴らしても、あかりの声は聞こえず、何の反応もない。 出かけているのだろうか。 それとも……やはりもう関係は修復できないのだろうか。 前日から何度もかけているあかりのスマートフォンに電話を掛けるが、やはり繋がらない。 帰ろう……。 彰巳は力なくあかりの部屋を後にしようとして……郵便受けの前で立ち止まった。 あかりの部屋の郵便受けには、郵便物やダイレクトメールの束が突っ込まれたままになっている。 毎日郵便受けを確認する几帳面な彼女が、明らかに数日はこの郵便受けを確認していない。 どうして、その考えに思い至らなかったのだろう。 あかりの身に何かが起こったのかもしれない。 何らかの事件に巻き込まれたのかもしれない。 何故そういう発想に至らなかったのだろう。 しかも、今の暁市は……。 「暁市、連続失踪事件……」 被害者は全員男性だと報道されていたが、例えば男を拉致監禁する現場を目撃すれば、犯人が女性に手を出す可能性も、ゼロではない。 彰巳は自分自身を責めた。 連絡が途切れたその時点で警察に連絡していたら、あかりは……。 彰巳は力の入らない身体を叱咤して、あかりの部屋の合鍵を取り出す。 鍵を開ける音、扉を開ける音だけが響いた。 生活音。 人の息づかい。 そういった音は一切聞こえない。 あかりは不在だった。 彰巳は膝を折り、呆然と人影のないあかりの部屋を眺めた。
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