3人が本棚に入れています
本棚に追加
悪夢と酒浸りの日々
王都の冒険者ギルドに最近登録し、最弱のDランクである魔女メルセデスは、気付けばどこか俯瞰的なポジションから一人街を見下ろしていた。
メルセデス自身は、目の前に広がる王都らしき街の光景が夢である事は十分理解していたが、あり得ないほどリアルで悲惨な状況を前に、息を呑む事しか出来ない。
普段であれば王都の大通りは、人やら馬車やら魔法車やらが行き交い大変な人混みで、メルセデスをいつも苛立たせるのだが、夢の中のそこに人の姿はなく酷く閑散としている。
それどころか、綺麗に整備されていた石畳は捲れ上がり、店はどこも強奪か暴動でもあったかの様に叩き潰されていた。
(何……? 何なのよ、この夢は……)
王都を象徴する巨大な時計塔は、肝心な塔の部分が破壊され無惨な姿を晒している。
本来の色ではあり得ない黒檀のような黒い太陽が浮かぶ真っ赤な空は、夕焼けというにはやけに悍ましく、黒紫色の雲の隙間からは時折稲光が走っている。その雲から降り注ぐ灰色の雨は少し粘度があり、触るのも不快だが避けようがない。
最初のコメントを投稿しよう!