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王都の外に意識を飛ばせば、何かの黒い粘液により大地は汚染され草木一本生えておらず、清涼で底が見えるほど美しかった河川は干上がり、川底だった場所はどこまでもヒビ割れて荒寥としていた。
メルセデスは、この世界の終末のような光景に震えが止まらない。夢は人の深層心理が生み出す願望が具現化する事もあると誰かから聞いていたが、自分の想像を超えるものすら見ることがあるのか不思議に思った。
そして、その黒い太陽を背にして立っている男がいる。
上から下まで真っ黒の重鎧を身を纏った偉丈夫で、筋骨隆々とした威圧感ある姿は、見覚えがあり過ぎる。
少しウェーブがかった濃灰色の髪に黒曜石の瞳を持つ彼は、三十歳を超えているとは思えない程若々しく精悍だ。彼の仕事の関係でギルドに一緒に連れて行ってもらった時は、多数の女の冒険者が彼に群がり、その度に心の奥にザラついた気持ちが湧いたものだ。
「……──ッ!! ……──ッッ!!」
メルセデスは必死に彼の名を呼ぶが、その声は霧散し闇夜に消える。
目の前で佇む男はやつれて眼窩が落ち窪んでおり、その生気のない顔はメルセデスの記憶の人物かも疑わしいレベルだった。
彼は見た事もない程に悲壮な顔をして、破壊の限りをし尽された王都にただ一人で佇んでいた。
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