悪夢と酒浸りの日々

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 グリフィス王国の王都エンダールにある人気の酒場『一角トカゲの丸焼き亭』は、今日も大盛況だ。  冒険者ギルドの総本部があるここには、一介の冒険者は勿論のこと、仕事を終えた職人や商売人が集まり、金の尽きる限り飲み食いして騒いでいる。 「……ディル爺っ! ワイン、もう一杯ちょうだいよ」  メルセデスはカウンター席に座り、グイッとワイングラスを傾け、中身を全て飲み干した。  メルセデスは大きな黒い魔導士用の帽子を目深に被り、時折覗く少し勝ち気に見えるアメジストの大きな瞳と、燃えるような赤毛が印象的だ。魔導士らしく身体にフィットした黒いスリットドレスを着ているが、胸元が少し心もとないため一生懸命寄せて上げている。 「はいよっ!……て、なんだメルセデスか。お前に飲ませると、エドワルドがうるせーんだよなぁ」  メルセデスにディル爺と呼ばれた酒場を取り仕切る親父は、片目に巨大な傷跡がある五十代後半の渋い髭面の男だった。  元々名の知れた冒険者だったらしいが、今は引退しギルドに併設された酒場の看板親父として腕を振るっている。 「もーっ!! エドの話はしないでちょうだいっ! 私だってもう十八歳だし、冒険者に登録して自立してるんだから立派な大人よ!」  メルセデスは酒場の親父にプンッと怒り、そのままワインボトルをひったくりグラスに注いだ。 (これが、飲まずにいられるかってのよ……っ!)  ただでさえ連日の悪夢に続いて、テーブルの上の新聞を破り捨ててやりたい衝動を必死で耐えているのに、これ以上何を耐えれば良いのか。
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