第1話 他人干渉は波乱の始まり。

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第1話 他人干渉は波乱の始まり。

春が来る。 冬、いわゆる受験シーズンを過ぎて、春休みが来ようとしている時期だ。 そんな下校中の華麗な夕日を眺めながら、俺は、 「女に生まれたかったぁぁぁぁぁ!!」 願望を叫んだ。 「…いっつもそれ言ってるよな、飽きろよ。」 隣にいる、イケメンで性格も良い、カースト上位に君臨する幼なじみに声をかけられた。 というか半分ぐらい罵倒が交じっている気がする。 「うるせぇ金城(きんじょう)てめぇみたいなイケメンに俺の悩みはわから…いや、分かるか…」 金城紡(きんじょう つむぐ)。 小さい頃からちょこちょこ喧嘩も挟み、仲良くしてきた唯一無二の親友であり幼なじみだ。 簡単に言えば、さっきも言った通りイケメンである。 それに加え頭もいい、運動神経も良し、そして良い奴。 そんなハイスペックな幼馴染である。 「それよりも志望校、ギリギリで受かったんだって?」 カシュッと甘酒缶の封を開けながら、聞いてきた。 「ホントギリギリだったけどな…あと一人俺より頭のいい奴がいたら落ちてたぜ…」 「ドベ1って…お前そこまで頭悪くないだろ?」 「受験当日に鼻水ダラッダラだったんだよ…さすがに落ちたと思ったわ…」 「よしよしよく頑張ったな。」 小さい子をあやす様に俺の頭を撫でてきた。 「俺はお前の彼女じゃねぇぞ、あと身長差全然ないだろ。」 手を跳ね除けつつ呆れた。 「まぁ俺が彼女作ると、咲希一人だしな。」 甘酒を飲み、うめぇ〜と唸る。 ほんと好きよなこいつ、と思いながら、俺は答えた。 「…名前は女っぽいよなぁ…あと誰がぼっちだ、友達ぐらいおるわ。」 今更自己紹介をするが、狐火咲希(きつねび さき)、15歳だ。 言わずもがな男、成績、運動神経共に上の下、顔中の下の一般学生だ。 誇れることは…ヒグマなら殴りあえるぐらいか? 「お前が女だったら付き合ってやったがなぁ〜」 七福神もにっこりのにやけ顔で言った。 イケメンがっ!くそっ! 「うるせぇやい!…ん?」 紡に飛びつこうかと思っていたが、海岸で何か揉めている人達を発見した。 片方は白衣の男、もう片方は…女?同い年ぐらいだろうか。 男が女の手を掴み、それを女が振りほどこうとしている。 「…なんだありゃ?」 俺は体重を乗っけていた柵を飛び越え… 「おい待て、何平然と行こうとしてんだよ。」 れなかった、途中で紡に引き止められた。 「明らかに揉めてんだろ、仲裁に行くんだよ。」 再び乗り越えようとするが、 「他人の事情に首を突っ込むなよ、危ないぞ。」 紡が押さえる。 だが、俺は紡の顔を横目に、 「知らん、とりあえず痴話喧嘩だろうが、なんだろうが聞いてみりゃ分かることだろ。」 強く言った。 ちなみに紡の顔は、いい感じに夕日に照らされていて、格好良かった。 「はぁ…お前はいっつもそうだな、怪我すんなよ。」 「誰に向かって言ってんだ?」 ちなみに紡がなぜいっつも、と言った理由は……自慢になるのであまり言いたくはないが、過去に数回強盗と誘拐犯を撃退した事がある。 まぁそれも完璧ではなかったので、あまり誇れることでは無い。 「行くかっ!」 俺と紡は柵を乗り越え、揉めている2人に近づいた。 「…だっ、いやだ!離して!そんなの打ちたくない!」 「何を言うか!俺の最高傑作なんだぞ!」 近づくにつれ、話が聞こえてきた。 …なんだろう、薬の話でもしてるんだろうか? 俺はとりあえず仲裁に入った。 「ちょっと、おっさん、強制は良くないよ。」 双方の腕を掴み、2人の距離を離した。 「紡〜、そっちの話聞いといてくれ〜」 「任せろ。」 紡に女子を任せ俺はおっさんの方を向いた。 「離せ!ガキ!」 「うるさっ…おい、何してたんだ?」 「ともかく離せ、ガキ!お前みたいなやつに話すことは無い!」 う〜ん、10点。 完全に頭に血が上っているようだ。 なんでそんなに興奮しているのか知らないが、話が通じないのは困りもんだ。 俺は紡に聞いた。 「紡〜なんか分かったか〜?」 ちなみにおっさんは、両手首をがっちり掴んでいるので特に問題は無い。 「この子が言うには、なんか注射されそうになったんだと、お前も気をつけろよ?」 若干泣きそうになっている女子を宥めながら、紡は言った。 あの短時間でちゃんと話も聞いて、しかも落ち着かせている。 手慣れてんなぁ… そう思いつつ俺は振り返り、 「何刺そうとしてたんだ?おっさん?」 白衣の男に問うた。 「私の最高傑作だ、それを試させてやろうと言うのに!その女は拒否したんだ!」 …科学者、っぽいのは分かったが、どうやら頭のネジが数本飛んでるらしい。 自分の都合しか考えていない、中々に狂ってやがる。 「「はぁ…」」 俺も紡も呆れ顔だ。 「あのなおっさん、そういうのは同意の元やらないとだな。」 法に触れる、犯罪になるのだ。 どれだけこいつが頭よかろうと、結局法には勝てまい。 この研究者だか、科学者だかの人生も考えて俺は言っている。 いつだってそうだ、被害者だけを擁護するのではなく、加害者がそうしてしまう理由も考え、それを治すということをしようと俺はいつもしている。 だが、世間は一向にそんなことをしようとしない、長年の謎だ。 「あぁ腹が立つ!そんなに言うなら貴様似してやる!」 俺が少しぼーっとしていると、急に暴れだした。 「あっしまっ…」 少し動揺したが、たかが腕を離しただけ、俺はそう思っていたが。 「あ、危ないっ!」 女子の声が聞こえた、それと同時に思い出した、 «プスッ» そういえば、こいつが注射器なるものを持っていたのだった。 刺さった場所は首、中々危ないことをする。 「っ!?咲希っ!」 焦った紡の声が聞こえた。 「おい動くなよ!紡、そっちはちゃんとその子を見てろ!」 俺はすぐさま紡を止めた。 他人の時は動かねぇくせになぁ、そんなに俺が好きかよ。 という冗談を言いたかったのだが、 「動くなよガキ、注射針が折れたらお前は失血死するぞ。」 割とシャレにならんことを男が言ってきたので、 「っ……」 つい息を飲んだ。 全員身動きが取れなかった。 その数秒後、注射器の中身が全て俺に入り、 「っ…うぐっ…な…なんだ…」 身体に異常が起き始めた。 自分の臓器が動いているような…浮遊感、のような… 「ここで…これを…」 男は何かをボヤいて、 «パリンッ» 薬品をばらまいた。 その薬品は煙を出し、その煙を嗅いだ途端、俺は眠気に襲われ、 「紡…離れとけ…」 何とか意識を保てる間に、警告だけ残した。
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