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9ー2 キュウ
俺は、すでに余生となった人生を生きながら1人頭を悩ませていた。
このままでは、俺は、とても安心して逝けない。
この世界が安全であることを確信できなくては、子供たちやガイやテオを置いてこの世を去ることができないじゃないか。
俺は、眠れない夜を幾夜も過ごしていた。
そんなある夜のことだ。
俺がもんもんとして過ごしているところにキュウが訪れた。
キュウは、奥様の『通販』の仕事の大半を任されていて昼夜を問わず激務に励んでいた。
そんなキュウがくつろぐ場所は、俺の側だけだった。
キュウは、この夜も疲れきった様子で俺のベッドへと潜り込んできて俺に抱きついてきた。
キュウは、竜人なのでテオたちと比べて年をとるのが遅い。
テオたちがすでに成体となっているのに比べると、キュウは、まだ幼げな少年の姿をしている。
テオもそうだが、キュウもまた俺の魔力を摂取することを必要としている。
俺は、俺にぎゅっと抱きついているキュウの頭を軽く撫でてやりながらため息をついた。
「何?何か悩み事なの?ティル」
キュウは、俺を見上げて訊ねた。
「最近、なんだか思い詰めてるみたいだけど」
「うん」
俺は、キュウにきかれて軽い気持ちで話した。
「実は、『破壊獣』というこの世界を滅ぼすという獣を探しているんだけど、なかなかみつからなくてな」
「そうなの?」
キュウは、眠そうな声できいた。
「ここにいるのに?」
はい?
俺は、キュウをまじまじと見つめた。
キュウは、眠りを邪魔されて不機嫌そうだったが、俺に話してくれた。
なんでも、キュウは、この世界に産まれ落ちた時に何者かの声をきいたのだという。
『この世界を滅ぼせ』
というその声は、キュウにとっては、従うべきものだった。
だけど。
キュウは、世界を滅ぼすことはなかった。
俺は、キュウに訊ねた。
「なんで世界を滅ぼさなかったんだ?」
「だって」
キュウは、俺にぎゅうっとしがみついたまま答えた。
「ティルが望まないから」
キュウは、俺が望まなかったから世界を滅ばさなかったのだという。
マジですか?
「じゃ、じゃあ、俺が世界を滅ぼせって言えば滅ぼすっていうのか?」
キュウは、のんきにアクビをしながら答えた。
「うん。もし、ティルが望むならね。でもティルは、そんなこと望まないでしょ?」
俺は、激しく頷いた。
「俺がそんなこと望むわけない!」
俺は、キュウにきいた。
「じゃあ、もう世界を滅ぼすことはないのか?」
「ううん」
キュウは、眠そうに目を擦りながら応じた。
「いつかは、この世界を滅ぼすよ。それは、俺の使命だし。でもティルがいる間は滅ぼさない」
キュウは、そう言うと眠ってしまった。
俺は、キュウの話を俺の胸の中だけにしまっておくことにした。
だって、誰が信じるっていうんだ?
こんなかわいいキュウが世界を滅ぼす破壊獣だなんて。
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