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きっと私は悲しむと思う。ポッカリと穴のあいた、そんな言葉では言い表せないほど彼の居ない日々は辛いだろう。
村人たちは交代でこの社を丁寧に掃除してくれるが、神ではない私自身のことを心配してくれるのは彼だけなのだ。誰もいなくなる、私を知る人は。
私は生涯、彼のことを忘れることはないだろう。
彼が亡くなったと聞いてからの月日は、気が遠くなるほどの時間と孤独を感じた。幽世に行けば会えたかもしれないけれど、臆病者の私はそこに顔を出すこともしなかった。
神であることは辞められないし、代替わりはまだ先の話だ。一つだけ代替わり後にしたいことがあったけれど、私はそれを胸に秘め、静かに日々を重ねる。
村人たちは変わらず私の社を掃除し、境内では祭事を楽しむ。人々の幸せそうな姿を見て、私は一時だけ寂しさを忘れるのだ。
それを何度繰り返したことだろう。
ようやく、私は代替わりの時を迎えた。
私は人になることを望み、人間の体を手に入れる。考えていたのはこれだった。
人間である彼がどんな気持ちであの言葉を吐いたのか、人間となれば知ることができるのではないかと思ったからだ。
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