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「泣く時は声を上げて泣きなさい。そうじゃないと、誰にも気づいてもらえないよ」
そう言ったあのひとは、声を上げずに死んだ。
実際にはどうだったかは分からない。彼が亡くなったことを、私は風の便りで知ったからだ。
彼とはとても親しかったけれど、そのことを誰も知らない。それに、私のことを知っている者は、彼しかいない。
私はこの村にある神社に祀られている狐だ。いつもは姿を隠し人々の願いを聞くのだけれど、代替わりしたばかりで、うまく馴染めていないところを彼に見つかった。
それから、彼との交流が始まった。
一人は寂しくないか、お腹は空いてないか、と私を人と同じように気遣う彼の優しさが嬉しかった。彼が姿を見せる度に嬉しくて尻尾が揺れてしまうのを、こっそり後ろ手でおさえたこともある。
私は彼のことを好ましいと思っていた。
「君はずっとここに一人なのかい?」
「神である限りそうだろうな」
「そうか。私が居なくなったら……まぁ、まだ先の話はいいか」
そう言って寂しそうに笑うのを横目で眺め、心の中でため息を吐く。もうずっと前から、私はそのことを考えてきた。
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