守る

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守る

今、人気の無い会議室でふたりきりと言う状況だ。 陽大(はると)は身体を震わせて怯えた子犬のようにこちらを見ている。その瞳には清らかな涙が溢れんばかりに溜まって今にも零れそうだ。 課長に呼ばれて帰ってきてから様子がおかしかった。 「陽大、何があった?」 「課長がっ……お、れを犯したい……って」 「そう言われ迫られたのか?」 「違う。何か、変なんだ。落としたものを拾っていたら課長の手と……俺の手が触れて」 「うん、それで?」 「ビリビリって何か変で……犯したいって俺に迫る課長が見えたんだ」 陽大はその一部始終を思い出しながら、ゆっくりと言葉にして伝えると、嗣貴(つぐたか)のスーツを両手で掴みすがりつくように身体を寄せ、上目で見つめてきた。それが助けを求めていることだと直ぐに分かった。そして、陽大が話してくれたことには心当たりがあった。 それは……五感のどれか一つが異常発達をし、特殊能力が備わると言うものだ。所謂、センチネルという特殊能力を持つ人のことだ。 「いいか、陽大。陽大は後天性のセンチネルだ。聞いた事はあるだろ?」 「セン……チネル。それにはガイドが必要不可欠……だったような」 「ああ、そうだよ。今こうやって縋り付いてる状況、陽大の本能だ」 「本能……?俺、一人じゃ無理……だ。こんな、の怖いっ……助けて、嗣貴!」 「もちろん。昔も今も、陽大を守るのは俺だ」 陽大は本能のままに縋り付き必死に嗣貴を求めた。嗣貴もまた陽大の言葉と、今映る姿に切なくも尊さを感じて瞳に愛を滲ませ柔らかい笑みを浮かべて一度強く抱きしめた。 「陽大」 「キスして……嗣貴、早くっ」 抱きしめている身体を一度離して見つめ、腰に手を回してグッと引き寄せると再度身体が密着した。鼻と鼻が擦れ合うのでは無いかという至近距離で注がれる視線はとても熱く、愛が溢れかえっていた。 そして、顔が近づけていき、お互いの唇が触れ合うとそのまま啄むようにキスを続けた。 「ん、ふ……あっ」 「んぅ、んふ……は、ぁ……柔らかくてオイシイ」 「つ、ぐたかぁ」 陽大は熱い吐息に乗せ物欲しそうに嗣貴を見つめながら名を呼ぶ。 「んー、どうした?」 「もっと欲しい」 はにかみながら羞恥を秘め上目で見つめ直すとお強請りをひとつ口にした。 「それは仕事終わってから、それまではおあずけだな」 「わかった」 おあずけ、という言葉を聞くと陽大の気持ちが見て取れる程の落ち込みようで、機嫌を宥めるように柔く頭を撫で、少し乱れたネクタイやスーツを直してやると、気持ちの切り替えだ!と言うように肩をポンポン、と軽く叩く。 「よし、じゃあ戻るぞ。みんな心配してるだろうから」 何も無かったかのように2人はオフィスへと戻ると「もう大丈夫です、ご心配おかけしました」と、陽大から皆へ頭を下げいつもの笑顔を見せた。 心配性な嗣貴は陽大の身体を支えるように隣へ立ち、腰へと軽く手を添えて、陽大をデスクまで送る。その最中、課長の視線がジリジリと刺さるのを感じながらも、変に煽る様なことはせず、微笑み軽く会釈をした。 幼なじみだった陽大とまさかの展開に驚きが隠せず、嗣貴は胸がドキドキとざわつき、一日中仕事が手につかなかった。 その理由に、恋だの愛だのという前にこれからの事が全く想像が出来ずにいることと……もうひとつは、課長が考えているという「陽大を犯したい」という件。 ガイドとして、陽大が好きだという気持ちと幼なじみとして……課長には指一本も触れさせたくないと強く嫉妬や独占欲に駆られた。
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