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【第1話】
人気のない冬の公園、夕暮れ時、ブランコ。
一人で落ち込むにはべた過ぎるシチュエーションだと思いながら、駿河結人は鎖を握りながら使い込まれた遊具にへたり込むように腰を下ろした。
『私たち、これ以上一緒にいてもプラスにならないと思う。別れよ?』
入学当初から付き合っている同級生の彼女、長谷川美月から昼休みに突然そう告げられた。あまりにあっさりした言い方に、その時は本気だとも思えなかったのだが、放課後もう一度話しをして彼女の決意が確たるものだと理解すると、どうしようもないほどの喪失感と悲愴感に襲われた。別れたくないと懸命に伝えはしたものの、けんもほろろに突き放されて、まっすぐ帰る気にもなれず絶望的な気分のまま家の近くの公園にふらふらと立ち寄っていた。
無意識に携帯を取り出し、美月の写真や、やり取りした記録を眺めていると、様々な感情がこみ上げてくる。かなりはっきりと振られたのだが、やっぱり諦めきれなくて結人は美月に向けてメッセージを打ち始めた。時間をかけて一生懸命打っているうち、予想以上に長くなってしまった文面を眺め、送信するかどうするか悩んでいると、上から声が降って来た。
「やめた方が良いですよ、無駄なんで」
「は……?」
周囲に誰もいないと思っていた結人がぎょっとして声の方を見上げると、隣のブランコに立っている人影が目に飛び込んできた。いつの間に、と思うと同時に、自身と同じ制服を着た男子生徒であることに驚いた。乗り継ぎの駅ならともかく、近所で同じ私立高校の学生を見たのはこれが初めてだったから。固まっている結人の前で、相手はトンとブランコから降りると再び話しかけてきた。
「別れようって言われたんですよね。だったらもう、そんなメセ送るだけ無駄ですよ。逆にしつこいって思われて、ますます嫌われちゃいますよ? どうせ終わるなら、相手にとって綺麗な記憶で片付けませんか」
そう言うと、見知らぬ男子生徒はこの場に不似合いなほど爽やかな笑みを浮かべた。
「な、なに言って……おまえ、そもそも誰?」
「あ、ですよねーすみません。盟和高校一年A組、柏木飛成です。一応初めまして――ですかね、駿河先輩」
「俺の名前……」
「知ってますよ、もちろん。先輩のことは何でもね。たとえば同じ吹奏楽部で彼女だった長谷川美月に、こっぴどく振られたばかりってこととか」
「っ! な、何で……」
「何で知ってるのかって? だって、見てましたから先輩のこと。そして俺、今日のこの日を待ってました」
改めてにこりと微笑むと、柏木飛成と名乗った少年は思いもかけない言葉を口にした。
「駿河先輩。ずっと好きでした、付き合ってください」
「は……?」
別れ話と告白――ここまで両極端な内容を、同じ日に立て続けに聞く経験は稀有ではあっても少しもありがみはなくて。結局、最初と同じ言葉を間抜けに繰り返した結人は、慌てて立ち上がると逃げるようにその場を後にした。
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