逃げ出した猫

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※  直太郎がやってきたのは翌日の昼下がり。  約束通りミハナの団子を下げてきたが三吾の機嫌は悪い。  掛け軸の絵柄を確認して眉根を寄せた。 「――――構図が変わってないか?」  牡丹の根元で赤い房飾りを首に結わえた猫が眠っている。以前は手足を折り曲げて――座っていた。 「そりゃ絵の中に封じたからな。たまに構図が変わった方が見飽きなくていいだろう」 「猫はもう抜け出して来ないのか?」  心配そうな直太郎に苦笑する。 「大丈夫だ、焚きつけにすると脅しておいた。人の強い願いで掛け軸の中の猫に魂が宿ったのが原因だ」 「どういう意味だよ」 「娘と猫を失くした男が寂しさのあまり絵に呪いをかけたんだ。旦那は悪い夢を見させられただろうが知ったことじゃない――俺の昼寝の邪魔をするな」  三吾は背中を向けてごろりと畳に伸びた。  春の陽だまりが心地よい。  庭でウグイスが春を寿(ことほ)ぐ声に目を閉じた。 
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