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「ちゃんと成仏できなかったんだろう。いらないと言われてこの猫はどうしろってんだ。稲田屋の旦那は新しい猫をもらい受けてご機嫌だ」
この三毛猫は――帰る場所がない。
「ひどくないですか、この猫はどうなっちゃうんですか?」
「行くべき場所に行ってもらうのが一番だろうが、そうなると稲田屋の旦那を道連れに……はマズいか」
風呂敷にくるんだまま綾に渡すと三吾は袖を漁る。
ほどなく取り出したのは赤い房飾り。
「なにをするんですか? まさか――!」
絞殺すとでも思ったのだろう、気色ばんだ綾を横目でにらんで三毛猫の首に房飾りを結わえ付けた。
「バケモノの首を絞めても仕様がないだろう」
それは稲田屋がミケのために用意した首輪。
「これからは絵の中で暮らせ。新しいもらい受け人も喜ぶはずだ」
言葉が分かるとは思えないが抗議するようにみゃおと情けない声で鳴いた。
「腹いせに稲田屋の旦那を少し懲らしめるくらいは目をつぶろう」
ぼんやりと月明かりが障子を照らす。
風呂敷から解放してやると三吾を振り返ってみゃあと短く鳴いた。
「猫らしくすまし顔で寝てろ。次に逃げ出したら焚きつけにするぞ」
掛け軸を見上げた姿が夜闇にとろりと溶けた。
猫が人知れず掛け軸に戻ったのは辺りが明るくなったころ。
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