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もともと家業とは遠い存在だった。ところが一昨年の春に長男が流行り病であっけなく逝ってしまうと奉行所勤めのお役人の次兄を飛び越えて三吾に白か黒か分からない矢がつき刺さった。
幸い両親は健在なので継いだのは若旦那という名目だけ。
「間違いなく暇だろう。人助けだと思って協力しろ」
急かされてようやく体を起こした三吾に向かい側に腰を落としながら豪快に笑う。三吾の文句など聞く耳は持っていないようだ。
「なにが人助けだ、あんたの道楽に付き合うつもりはない。この間も曰く付きの簪を持ち込んだばっかりじゃないか」
それは銀の平打ち簪。桔梗の透かし紋が美しい逸品だった。
直太朗が持ち込んだのは手にした者は夜な夜な悪夢にうなされるというシロモノだった。知らされずにその被害に遭ったのは三吾。
(大蛇に絞殺される夢と女の恨み言をたっぷり味わった)
前の持ち主に経緯を吐き出させて調べてみるとどこぞの盗人が墓から掘り返したものだと分かった。持ち主探しに奔走して菩提寺を見つけ、今は手厚く祀ってもらっている。
「おまえなら困りごとを解決してくれるだろうと思ってな」
「俺は拝み屋じゃない、ただの小間物屋だ。どの面下げて――」
「男前の面で釣りがくるだろ?」
「一昨日来やがれ、衆道の趣味はねぇ」
「同感だ、俺もない。まあ、話だけでも聞けって」
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