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それはただの厄介払いだ。こんなモノを押し付けるのは友人ではない。
お人好しがいいように利用されていることに腹が立つ。箱を引き寄せて中身を確認すると――一幅の掛け軸。
広げてみると絵柄は大輪の牡丹の陰で眠る猫。すぐそばで蝶が踊る。あまり詳しくない三吾が見ても見事な筆遣い。まるで生きているかのよう。
「あら。可愛らしい猫ですね、三毛猫ですか?」
「絵柄は牡丹花下睡猫児か」
首を傾げた綾に平和そうな見た目に騙されてはいけないという禅問答だ。と簡単に説明してやる。
「見事な絵だろう。問題はその猫が逃げ出して悪さをすることだ」
茶を啜りながら直太朗がため息混じりにこぼす。三吾の眉が寄った。
「は?」
夜になると絵の中から猫が逃げ出して家の中をうろつくのだと言う。
そんなことはないと笑い飛ばしていたのだが、直太郎が仕事を終えて帰ると――猫が消えていたという。
鳴き声を聞いたり気配を感じたり。視界の隅に猫を見かけることもあった。ところが朝になるとすました顔で掛け軸の中におさまっているのだという。
危害を加えてくることはなかったのだが三日目の夜に――事件が起こった。
「俺の魚が消えた」
直太郎の夕餉のアジの干物が消えたという。
「まさかの泥棒猫か」
「絵の猫が盗み食いをするとは考えにくいのだが……」
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