午前7時、雪のホーム

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「お嬢さん」  見知らぬ声にドキリとしたけれど、体に力が入らない所為か、肩は跳ねなかった。そんな気力もないらしい。  顔を上げると、上質な黒のコートを着込んだ老紳士が、心配そうに私を見ていた。 「こんなところにいては、風邪を引いてしまいますよ」  品の良い白髪に緩やかな丸い背が似合う、おっとりとした口調で笑みを向ける姿は、どこか彼に似た雰囲気もあり、いつか見られたかもしれない彼の未来を思うと、どうしようもなく悲しくなった。 「平気です、ご心配なく…。もう少し人混みが落ち着いたら、行きますから…」  口角は、ちゃんと上がっていただろうか。声は、きちんと届いただろうか。  きっと酷い顔をしているから、なるべく丁寧に答えたつもりだ。  もし、この男性が数時間後に〝喪服の女性が死亡、自殺か〟などと何かで見た時に、ここで会ったことを思い出させてはいけない。見ず知らずの人に、ほんの少しでも背負わせるものがあってはならない。
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