20人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
序章
──接続、接続。
……完了。
──さて、どこから話そうか。
「げぇ、あ、が!!」
雨が降っている。歩いている。それだけは分かる。
しかし足元は覚束ず、視界は何とも朧気で、喉の奥は燃えるように熱く、痛い。
ついさっきまで、まるで地獄にでも居たかのようだ。身も心も、自意識になくともズタボロだと分かる。
今にも倒れるだろう。数分、数秒、あるいは刹那のあわいの先に。
──だのに、何故か。足は止まらない。
倒れる身体を前へ、前へと押しやるくらいしか出来ないのに、足はとまらない。その作業だけで身体中に激痛が走るのに、押しやる力は強く、深く。
浅い木立の合間を、不恰好な様子で進むのはひどく不気味だろう。この世のものでは無い何か、怪物の類いに見えてもおかしくない。
立ち枯れた古木に肩がぶつかる。よろけて、膝から崩れ落ちる。立ち上がる力は絞り出せない。
「はぁ……! はぁ……! はぁ、あ!」
息が荒い。肺腑が苦しい。心臓が耳元で五月蝿く我鳴る。
生きている、ただそれだけだった。しかもそれも、直ぐに終わってしまいそうな様子で。
雨に濡れそぼった前髪が、顔に張り付いて気持ち悪い。身体に上手く力が入らない所為で、髪を払う力が捻り出せない。
鼻腔を占める、草と土の匂いだけが鮮明だ。両目は像を結ばず、両手足に力は注がれず、触覚ですら機能しているか分からない。
聴覚だって、呼吸と鼓動の喧しさに支配されていて、雨音すら聞き分けられない。まして他の音なんて──
「……っ、め……!」
何か、聞こえた。草葉に滴の落ちる音じゃない。当然、心臓や気息の音でもない。
「だめ! はやく逃げないと! もう“グール”が……!」
最初のコメントを投稿しよう!