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言葉や詩ですらなく、ポエムという響きは何やらふわふわしていて少し気恥ずかしく、ハードルが極めて高い。このハードルを乗り越えられる猛者は心臓に毛が生えているに違いない。
それで掲示板には猛者の足跡、5センチ四方の紙が3枚ほど貼り付けてあった。誰か既に参加しているのかと思って覗き込んで困惑する。
『恋はまことに影法師、いくら追っても逃げて行く、こちらが逃げれば追ってきて、こちらが追えば逃げて行く』
なんだこれ。ポエムというより大喜利のような。よくわからんと思って眺めていると、マスターが妙にしょんぼりと灰色混じりの眉毛の端っこを下げていた。えっ?
「駄目でしょうか」
「えっと、えっとあのこれはマスターが?」
「いえ、シェイクスピアです。私も詩はよくわからないのですが妙に耳に残っておりまして。その、掲示板を設置しても1枚もなければ流石に誰も張って頂けないと思い、それでお恥ずかしながら最初の1枚を書いてみたのですがやはり古かったでしょうか」
やばい、マスターがシェイクスピアとか凄いそれっぽい。キュン死。
シェイクスピアが新しいとはとても言えない気はするけれど、新しいとかそういう問題ではないんじゃないだろうか。でもええと、どうしたらいいんだ。推しを悲しませるわけにはいかぬ。
「シェイクスピアはよくわからないですけど、この喫茶店にはとてもあっていると思います。だから他の方も書いたのではないでしょうか」
「それが他の2枚も常連さんにお願いしたものなのです」
マスターはますますしょぼんと悲しそうに眉を下げる。いと萌ゆ。
『星の数ほど男はあれど、月と見るのはぬしばかり』
これは都々逸かな。どこかで見た気がする。
もう1つは演歌のサビっぽく、やっぱり聞いたことがあるような。
けれどもどれもこの企画テーマとはちょっと、いや大分違うような気がする、というか。
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