遥かなる猫の星からきた君たちへの猫ビーム

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■  三日後。  朝の登校途中の住宅街で、相沢が声をかけてきた。 「里中くん、おはよう。来週から期末だね」 「だな。……猫星人は?」 「明日帰るんだって。母星でささみの製造ができるように、源七郎博士がいろいろ教えてあげたみたいよ」 「そりゃよかった」  かたわらの塀の上には、例の黒猫が俺たちと並んで歩いている。あれ以来、なつかれてしまっていた。  俺にはもう猫語が分からない。それでも訊いてみた。 「お前、なんで俺たちを助けてくれたんだ?」 「にゃー」 「……里中くん、今の分かるの? やっぱり、ささみのお礼かな?」 「分からねえよ。実は、最初に会話したとき、毛並みや瞳のきれいさを少し褒めたんだ。それでかなと思ったんだけど」 「え、人間みたい。そういう価値観、猫にもあるんだ!?」  俺は苦笑して頭を振った。 「いいや。そんな都合のいいもんじゃないと思う。猫にとっての理由なんて、礼とか、因果とか、そんなんじゃない。きっと、『なんとなく』、さ」  そうかも、と相沢が笑った。 「俺も猫飼ってみようかな。そうしたら、猫の気持ちが分かるかもしれないし」 「分かり合えないんじゃなかったの? もう、猫語もしゃべれないのに?」 「言葉が通じる人間同士で分かり合えないことがあるなら、言葉が通じない動物同士が分かり合えることがあるかもしれないだろ」 「へりくつぅ。じゃあ試しに、この子は今、どんな気持ちだと思う?」  相沢が黒猫を示して言う。  俺は黒猫を覗き込んだ。  分からん。  さっぱり分からん。  でもまあ、多分。 「さあ。腹減ったとか、暑いとか寒いとかじゃねえかな」  とりあえず、学校に着いたら。  野良猫の飼い方でも検索してみようか。  三日前、あれから、無茶するなと博士に怒られた。  いや、あんたに言われる筋合いだけはないと思いながら、少し嬉しい気持ちがあったのは確かだ。  相沢も、落ち着いた後に少し泣いて、俺を叱った。  猫ミサイルとか言ってなかったっけかと思いつつ、さすがにちくりと罪悪感を覚えた。  そう、軽率な真似をして、悪かったとは思うのだが。  それでも喜ぶべきことだろう。  俺が死んでも悲しむやつはごく少ないという、我ながら悲しい状況は。  どうやら、少しずつ改善されているらしいから。 終
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