遥かなる猫の星からきた君たちへの猫ビーム

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 相沢がなにか言いかけたが、そこに、老人のだみ声が響いた。 「おい、サト! どうだ猫の気分は!」  ほかならぬ源七郎博士が、会議室のドアからひょいと顔を出した。驚いた武装猫が、一斉にそっちを振り向く(かわいい)。 「おお、博士! こんなところを通りがかるとは偶然だな! 薬とやらをくれ、今すぐ人間に戻りたい!」 「ほいよ!」  博士が俺に、赤いカプセルを放った。俺はそれを前足で挟んでキャッチし、一息に飲み込む。  俺の体が輝きだした。そしてどういう原理なのか、肉体はほんの数秒で、もとの人間のそれに戻った。当然、全裸だったが。 「いよおし! これで、ビームの威力はケタ違いだぜ! 見てやがれ猫ども! 相沢、これで平和だ! 俺のことなんてすぐ忘れろよ!」 「だからだめだって言って待ってなにか着てこっち向かないでイヤアアアア!」 「あばよ人生! 目標は直上、敵宇宙船! エネルギー増幅変換、撃てえええええッ!」  俺は空を仰ぎ、両手を天に掲げた。  ――しかし。 「……里中……くん?」 「……あれ? 何も起きないな? どうなってんだ、博士」 「どうもなにも、サト。お前、人間に戻ったら猫ビーム発射器も消えるに決まっとるじゃろ」  天に向けた俺の両手は、ゆっくりと、己の頭を抱えた。  し―― 「しまったあああ!! これじゃただ猫が全裸の人間になっただけじゃないか!!」 「しまってえええ!! 頭よりほかに隠すところあるでしょう!!」  相沢がなにやら騒いでいるが、それはそれとして、想定外の事態に陥ってしまった。しかも人間に戻れば、もう猫語も分からない。  モニターの中で、ロシアンブルーが右の前足をついと持ち上げた。  言葉が通じなくても理解できる。あれは――「やれ」の意味だろう。  おれは相沢の前に出た。こんなことで、やつらの銃を防げるとは思わないが。  ちくしょう! なにかないのか! なにか―― 「なあお」  そんな声が、会議室に響いた。  ふと見ると、ドアの脇にいる源七郎博士の足元に、見覚えのある黒猫がいる。 「あれ、お前、相沢の家にいたやつか? ここまでついて来ちゃったのか」 「なあおなあお」  その黒猫の声を聴くと、明らかに武装猫の様子が変わった。  しかも、モニターの中の猫たちも、ロシアンブルー含め、全員がやおらよだれを垂らし始めた。  そして全力のジェスチャーで、空中に、なにかの形を描いている。 「里中くん、あれって……」 「もしかして……ささみ……か?」  俺と相沢も身振り手振りで、「地球のおいしいご飯をあげるから、征服はやめてもらえませんか。人間が滅びると、食べられない代物です」と伝えた。  ロシアンブルーのOKが出たので、近所のスーパーでささみを買ってきて、ひとまず武装猫に与えた。  武装猫たちは我先にとささみにかぶりつき、そしてそれを見ている宇宙船の猫たちから、みるみる戦意が消えていく。  ひとまず。  地球人類は、滅亡を免れたようだった。
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