ほ:ほうき星を探して

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ほ:ほうき星を探して

 軍の一員として、自分も不寝番を務めるべきだと言い出し、守役が「姫様はご両親にそっくりで、こうと決めたら絶対に引きませんから」と諦めの吐息をついた、その夜。 「ほうき星って知ってる?」  身体が冷えないように温かいココアを持ってきた青年が、突然そう言ったので、イリスは目をぱちくりさせながらカップを受け取った。 「何、それ」 「彗星とも言うんだけどさ」  青年――アッシュは白い歯を見せながら、満天の星空を見上げる。 「小さい星が、尾を引いてこの空を流れてゆくわけだ」  そういうものもあるのか、と納得して、ココアにふうふう息を吹きかけ、口に含む。たちまち、香ばしい甘さが口内に広がる。 「で」青年の節くれ立った指が、空を指し示す。 「ほうき星は貴重だから、見たら消える前に願い事を託すと叶う、って迷信が、親父の故郷にも伝わってたんだと」 「ふーん……」  迷信なのか。少しがっかりしながら、闇色の空に散りばめられた光を見上げた、その時。  視界の端で、きらり、一際輝いたちいさな星が、虹色の尾を引いて流れ落ち、そして、消えた。 「あっ!」  思わず大きな声をあげて腰を浮かしたので、カップの中のココアが揺れる。 「残念」  アッシュが口元に拳を当て、くっくと抑えた笑いを洩らす。反応はばっちり見られていた。羞恥心がイリスの胸の中で渦を巻く。  しかし、開き直りが早いのは自分の利点だ。 「まだまだ夜は長いもの。もう一回見つけるわ」  ぷうと唇を突き出しながらも強気な発言。すると、青年はこちらを向いて、きょとんと目を瞬かせ、それから、満足げに微笑む。 「ああ、いいね。それでこそお姫さんだ」  そうして、蒼の瞳が上を向くのに倣って、再び空をあおぐ。  ほうき星を見つけたら、何の願いを託そうか。  求める謎が解けるように。大切な人を救い出せるように。敵に打ち勝つ事ができるように。  それらと同じくらい、この青年とこれからもこうして夜空を見上げる日々が続くように、という願いが、心に根ざす。  あまりにも願い事が多くて、強欲だろうか。  唇を笑みの形に象り、もう一口ココアを飲み下すと、イリスは星空に視線を馳せ、ほうき星が流れるよう焦がれるのであった。
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