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環摩莉子は辻本恵の新居を、隅々まで視てまわった。浴室やトイレなどの霊が憑きやすい水回り、寝室、子ども部屋、ウオークインクローゼット。どの部屋もまだ生活臭がなく、建具や建材の匂いがした。
霊視を終えた摩莉子がリビングに戻ると、「どうかしら……?」と、恵が不安げな目を向けてきた。
リビングテーブルの椅子に腰をおろし、「大丈夫ですよ」と摩莉子が返すと、恵は安堵の息を漏らした。
恵は派遣先の社員で、摩莉子の上司にあたる。
およそ一月前、恵は新築のマンションに引っ越したのだが、新居で生活を始めてから体調不良になり、会社を休みがちになっていた。
病院で検査を受けたが悪いところはなく、アレルギーのパッチテストでも、シックハウス症候群などは陰性だった。
困った恵は、摩莉子に霊能力があるという噂を思い出し、摩莉子に相談したのだ。
「じゃあ環さん、ここがむかし墓地だったのも関係ないのかしら?」
「ええ。昨日調べたら、墓地だったのは百年以上前だし、このマンションの着工前には、きちんと地鎮祭も済んでいます。近くの氏神様に頼んだようですし、心配ないですよ」
「そう、よかった……」と、恵は言葉とは裏腹な、複雑な表情を浮かべた。
体調不良の原因が土地の霊障じゃないとすれば、一体なにが原因なんだろう。恵の複雑な胸中が、表情に現れていた。
摩莉子は室内を霊視したあと恵を霊視し、体調不良の原因を掴んでいたが、口にすることを躊躇っていた。しかし、思い悩む恵を不憫に思い、恵にこう告げた。
「辻本課長は、呪われています」
恵が驚いたように目を見開き「え……」と、声を漏らす。
「えっ、私が?」
摩莉子がこくりと頷く。
「怨みをかっています」
恵は寒気を感じたように首をすくめ、両手で自分の躰をさすった。
「私、恨まれるおぼえなんて……誰? 気持ち悪い……」
「それを今から、霊視します」
そう言うと摩利子は、バッグから漆塗りの小皿を二枚取り出し、テーブルの上に並べた。
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