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 恵と、結衣奈ちゃんママこと木下登美子は同い年で、公団の同じ棟で十年以上、ご近所付き合いを続けてきた仲だった。娘も同い年だったので、育児のことなどで相談し合ううちに、自然と仲良くなった。  公団は昭和三十年代に建てられたもので、当時は、総戸数二千戸を誇るマンモス団地として人気だったが、現在は老朽化が進み、空き部屋も目立つようになっていた。  住人の多くは高齢者が占め、恵のような三十代のファミリーは、マンションの頭金が貯まると引っ越すことが、通例になっていた。 「環さん、ウチは運がよかったのよ。主人の会社が大化けして、今のマンション一括(キャッシュ)で買えたから……」 「キャッシュですか。それはすごいですね」  恵が引っ越した駅前の高層マンションは、おそらく七千万円近くするはずだ。恵は課長とはいえ、会社は零細企業だ。宝くじでも当たらない限り、購入できるような物件ではなかった。 「ええ、私も驚いたのよ。主人が創業から勤めていたベンチャーが大手に買われることになって、社員持ち株制度で株主でもあった主人にも大金が入って」 「そうだったんですか。夢のある話ですね」 「ほんとに。あのマンションが建設中のとき、結衣奈ちゃんママと、あんな高級マンションどんな人が買えるのかしらねって話してたのに、まさか自分が住めるなんて……」 「……木下さんは課長に裏切られたと思ったんでしょうね。そこに(ねた)みや嫉妬(しっと)の感情も降りつもって……」 「そうね……今のマンションから、公団が見えるのよ。ウチは高層階だから、見下ろす感じで。それを公団から見上げると思うと、もやもやするのも、わからなくはないわ……」 「そうなんですね。そんな嫉妬の気持ちを抱えたまま、愛海ちゃんを預かっていた結衣奈ちゃんママも、複雑なお気持ちだったんでしょうね」 「そうね……仲直りできるかしら……それと、愛海にも悪いことしたなって、反省したわ。綺麗なマンションに越せることで気持ちが高ぶって、愛海をかまってあげる時間が、たしかに減っていたもの」  摩莉子は、呪いが大事に至らずに、恵への軽いお(きゅう)で済んだことに、胸をなでおろした。  ところが、話はこれで終わらなかった。
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