プロローグ

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 かつて、神の作った人間の世は滅びた。  神の作り出した人間という生き物は、歴史の端々の歪みによって衰退の途を辿ることが常であった。  地上には、つねに魔力が溢れていた。  魔力とは、人間のために神が与えた道具である。  神の使徒である精霊は、その魔力に溶け、命ある神の人形である人間と共生していた。  人間は神に祈り、時に精霊と契約をし、魔力ある地上を生きてきた。  地上を満たした魔力は、時に滞り、澱み、そして歪みを引き起こす。  それが、魔力の澱であった。  魔力の澱は、偶然を必然として魔力の塊を産み落とす。  そうして産み落とされた魔力の卵は、神の作りし人間を狂わせ、滅びへと誘い、数多の歴史に幕を下ろした。  そして、再び神はいたずらに人間を地上に放す。  今世が幾度目の歴史なのか、今となっては誰もわからぬ。そんな世界に、風花は生まれきた。  今世には一つの大陸に五つの国が成っている。  五つの国は同盟により中立を保ち、度々生まれる小さな魔力の歪みを魔騎士により討伐し合い存在していた。  それぞれの国は代々王家と呼ばれる人間が継承し、その代の国王1人に先見の巫女と呼ばれる未来を読む少女が添えられる。  それが、一つの国のあり方であった。  五国の中央に位置する深央都王国には、国を守護する護国魔騎士団が設置されている。  魔力を行使することに長け、国の維持のために戦うこと深央都王国のエリート職である。  護国魔騎士団への入団を目指す者たちが技を磨くのが、王立魔騎士養成学園であった。  王立魔騎士養成学園が出来たのは、風花が生まれるずっと前だ。  護国魔騎士団へ入団する資格は、必ずしも学園卒業ではない。  しかし、歪みから国を守る重要度ゆえに、入団試験は決して簡単ではなかった。  そのため学園では、一般の教育機関と異なり、魔騎士としての能力を育てる手助けをする指導方針を採用している。  深央都王国の国民は、生まれ落ちた瞬間に、魔力行使の素養を見定められる決まりがあった。  魔力行使の素養とは、大気中の魔力を己の力として変換出来るか、それをもって精霊と契約出来るか、である。  魔力行使の素養は、持って生まれた資質がほとんどとされてはいるが、一部は訓練や環境により左右されるとの見解が一般的であった。  そのため、王立魔騎士養成学園の入学基準は低く、年齢制限も設けていない。  しかし、魔力行使の素養が低くてもその門をくぐることが出来る分、進級や卒業には厳しい側面があった。  第1学年から最終学年の3学年まで3年で卒業出来るものは、半分に満たない。  護国魔騎士団への入団は、さらに狭き門であった。  しかしながら、王立魔騎士養成学園への入学希望者は数多く存在する。 魔騎士とならずとも、学園出身であることは世間一般ではステイタスと捉えられるからである。  貧富貴賤問わず、学園出身者は要職に就くことも多い。  生活に余裕のある一定数の者は、こぞって学園入学を目指していた。  風花は今、騎士団からの任務として、王立魔騎士養成学園の入学式に生徒として参加している。
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