プロローグ

3/5
前へ
/52ページ
次へ
 人間の群れの流れに乗って、風花は教室まで辿り着いた。  王立魔騎士養成学園は、学年ごとに隊という単位で構成されている。一つの隊の人数は決まっておらず、また、年によって隊の数も変動する。落第者の人数も相まって、初学年は、三学年中一番人数が多かった。  学年ごとにおよそ二十ある隊は、魔力行使の素養が均等になるように組成される。  しかし、学園において隊という単位は、基礎科目の受講を割り当てるためだけに存在していた。  個人の技能向上を目的にした選択科目が大半を占める学園では、集団の概念はほとんど適用されない。  風花は初学年四隊と掲げられた扉をくぐった。  中では三十人ほどの少年少女がいくつかのグループに分かれて会話をしている。  椅子に座り一人で過ごす者の数は多くはない。  会話に花を咲かせているのは、学術塾の面々であろう。  深央都王国では、十歳から十五歳までの間、一般教育として学術塾を開いている。学術塾は、国民の義務ではないが、権利として与えられている教育機関だ。  学術塾を卒後してすぐに王立魔騎士養成学園へ入学するものは非常に多かった。  一度ぐるりと教室を見渡す。  幾人かの生徒から好奇な視線を受けたが、すべて受け流した。  無自覚に整っている相貌は、その怜悧さで人を遠ざける。  風が微かに顔の前を横切った。生徒たちの視線がまばらに散っていく。  風花は、すっとその場から動いた。  座席は指定ではないようだ。  風花は窓際の一番前の椅子に座った。  柔らかな風が、風花の周りをくるりと撫で、前髪を一房揺らして消えていく。  閉ざされた窓に、変な顔をした自分が写った。  風花が教育機関に身を置くのは、生まれて初めてのことであった。  普通でこそあれば叶ったであろう機会。姉ですら学術塾へは通っていた。写り込むのは、初めての環境に戸惑う自分。  それでも憧れた生活に、期待と希望を捨てられない表情だ。  それでも風花は、すぐに訪れてしまうかもしれない絶望へも、立ち向かわなければならない。  騎士団の鎧を脱ぎ捨てたとて、何も変わることはない。  風花は紺色の学生服の袖を握りしめた。  風花の思考を遮るように、教室の中央で誰かが大きな笑みを咲かせる。  友など出来ずとも良い。  この平穏がいつまでも続けば良いと、風花は心から願った。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加