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ようやく攻めの気分
帰ってからの椎名さん、たくさん卵料理を作ったおかげで、とりあえず小僧たちに食べさせるものができた。
引き出しから短くて柄の太いスプーンを二本みつけたので、それを二人に持たせ、勝手に食べさせながらその間に硬いご飯を小鍋に入れて水を足し、更に煮込んでみる。
冷蔵庫のドアに固形のコンソメをみつけ、小鍋に放り込んだ。
少し煮たら、うまそうな匂いが漂ってきた。野菜も入れたほうがいいのかな? と気になり冷凍庫にもしかしたらミックスベジタブルでも入っていないか、と開けてみる。
中には、フリーズ用のプラバッグが整然と並んでいた。
几帳面な文字がいちいち入っている。
『2/20 コーンスープ濃縮』
『2/21 サトイモ煮つけ』
『2/21 白身魚ほぐし』
ありとあらゆるメニューが揃っていた。急にへなへなと力が抜ける。
最初からこれを解凍して使っていればよかったんだ。
中から『ホウレンソウとニンジン水煮』を選んでレンジにかけ、解凍できたものを袋の上から指でつぶし、できたおかゆの中に入れた。
「トシくん、マアくん、できたぞ」
ようやく、二人に食事を出すことができた。
ふうふうさましながら、小さなお椀に取り分ける。四つの目がじっとその様子を見守っていた。
反応は上々だった。
ようやく、椎名さんも朝食にありついた。おかずは解凍したサトイモの煮物だった。
いつもの味がこんなに心に染みるとは。
午前中はひたすら洗濯に費やす。
子どもたちは相変わらず二人で仲良く遊んでいる。
無心に洗濯していると、シゴトのストレスもどこかに洗い流されていくようだった。
干場いっぱいに、シーツやらシャツやら下着やらが並ぶ。
まるで洗剤のCMだな。と、つい腰に手を当てて翻る洗濯物に見入ってしまった。
そこに、また泣き声が聞こえてきた。
中をみると、おもちゃの取り合いをしてマサがトシを転ばせたらしく、トシが足をばたつかせて泣いていた(目印がなくても二人の区別が自然とつくようになっていた、何故?)。
「よし、パパとおんもへ行こう」
ようやく、そういう気分になった。
さっきMIROCを見たのがやや不吉な気もしたが、そんなことを言っていたら一生子どもと外で遊ぶ機会はなくなってしまう。
今こそ、リアルに主夫を体感するときなのだ。ベビーカーを引っぱり出し、双子に今度はちゃんとクツも履かせて座席に乗せてやった。
先ほど寄った近くの公園はあえて避け、更に坂を上っていった方にある、やや大きめの公園へと、彼らは向かった。
まだ冬は終わっていないとは言え風はなく、おだやかな日だった。
公園の芝生の上に二人をそっと降ろし、自分も傍らに座る。ボールのおもちゃを投げてやったり、寄って来る二人を交互に投げ飛ばすマネをしたり、寝転んで足にのせ、高く持ち上げてやったりとかなり体力を使った。
あたりをみると、似たような親子連れがそこかしこで遊んでいる。
彼のようにパパらしき男性が一人で子どもをみている組もいくつかあった。彼よりも若そうな、さっそうとした男性が目立つ。
ママ連がだいたい固まってぺちゃくちゃとおしゃべりしているのが多い中、離れ小島のように、やや距離をあけて、それでも手なれたように子どもの相手をしている。
「……オレも、がんばらなきゃな」
それでも、何となく足もだるくなり、芝生の上に大の字になった。そこに二人が馬乗りになって、あちこち引っ張って遊んでいる。
「まあ、テキトウにな」
身体をひねると、双子たちがごろんと芝生に落ちて、きゃっきゃっと大喜び。すぐまたしがみついてくる。そこをまた落とす。乗って来る。落とす、乗る、何度も何度も繰り返していた。最初はひどく転がって泣きそうになったマサも、トシが要領よくしがみついているのを見て、自分でもそれなりに工夫してタイミングをずらしたり身を低くしたり、落ちないようにがんばっている。
近くを通りかかった若いママが、何てヤバンな遊びをさせているのだろう、という目で見て行ったがもう全然平気だった。
こうして昼まで、なんとかもたせることができた。
そのまま近くのコンビニでおむすびとお茶、子どもらにパンとゆで卵、ポテトサラダを買ってまた公園に戻る。
いつも赤子と共に持ち歩くバッグに、ビニルシート、オムツセットとミルクのセットもあったので、日向にシートを拡げ、がばっとオムツを替える。
手を洗って、さてランチタイム。
昼になると親子連れはほとんど家に帰るらしく、あたりは静かで小鳥の声しか聞こえなかった。
むしゃむしゃと、三人はひたすらメシに集中した。
マサはパンよりおむすびに興味があったらしく、しきりに手を伸ばしてくるのでパンと替えてやった。
コイツもむすび派か、しかもコンブ大好きみたいだし。
腹ができてきたら、急に眠気が襲ってきた。
片付けもそこそこに、椎名さんはごろんと横になった。
双子も特に何もせずに、同じように寝転んで、まもなくスヤスヤと寝息がきこえてきた。
しばらく、ぼおっと横になっていた。
これだけ何もしないでいられるなんて。貴重な時間だった。
2時に携帯のアラームが鳴るまで、彼もうとうとしていたらしい、はっと気がついて起き上がる。双子はまだぐっすり眠っていた。
日差しはあるが、少し寒くなってきた。
彼らを一人ずつバギーに戻し、ゴミを手早くまとめてバッグに突っ込んで、彼は歩き出した。
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