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天野
2020年の初頭に流行り出したこの感染症は、東京オリンピックを延期させ、政府から緊急事態宣言とやらを出させ、日本全国の飲食店を時短、休業させた。
流行には、“波”があり、2021年1月に第3波が来ていた。
それで、浜松の飲食店にも『休業要請』という“お達し”が出ていたのだ。
すっかり忘れていた。前日のニュースで流れていた。
(…こんな事になるのかよ)
いつもとまるで違う。
誰も息をしていないような感じ。生気が無い。漂うような喧騒が無い。興奮が無い。
(何だよ、これ…)
俺は失望すら覚えた。
気が付くと、辺りは暗くなっていた。遠く空が紅く、黒い。夜が来たようだ。
「どうもどうも! あまチャンネル、スタートでーす!」
弾けるような声で俺は振り返った。
道の向こう、ゲームセンターの前で青色の髪をした若者が、路肩の花壇に置いたスマホの前で派手な奇声を上げていた。
(…なんだ、ありゃ?)と思いながら、次郎へ向かった。
昨日見たおかしな夢を確かめるためだ。
浜松の街中が死んだようになっている夢を見た次の日の仕事帰り、俺は電車に乗って浜松の中心街に出てきていた。
2021年の年明け、新型コロナウイルスの感染者が激増した。去年から続くこの感染症はこれで第3波とされていた。去年の5月が第1波、8月が第2波。浜松に限らず、日本全国の居酒屋や飲食店が大ダメージを受けた。
街中で飲み歩く事を趣味にしている俺からしたらそれは寂しい話だった。
浜松の街中での居場所がなくなってしまう。
実際、次郎や六兵衛にも足を向けなくなっていた。
次郎に行ったのは、去年の年末に“連合”で皆を集めた後、一度しか、顔を出していないはずだ。
それ以降、浜松の街中に出ていない。
やはりどこか寂しかった。
昨夜の夢は俺のそうした気持ちがから見せたのかもしれない。
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