音羽 拗ねる

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音羽 拗ねる

俺は、まだ残っていた関係者に、 「他に残っている人はいませんか?」と尋ねた。 「そう言えばまだ、舞台で誰かピアノ弾いていたな」 急いで舞台に向かった。 薄暗がりの中に、一人ピアノの鍵盤に、頭を打ち付けている音羽がいた。 ギャ~ンギャ~ン! 不協和音・・・ そして「アイスクリーム・アイスクリーム」 聞き覚えのあるフレーズ。 そっと、近づき・・・・ 「ごめん」 「えっ?」 と、言ったきり暫く沈黙が続いた。 そして、顔も上げずに、鍵盤に頭を付けたまま 「どなたですか?  今日は私の出番はないそうです。 明日・・・伺います・・・」 拗ねている。謝るしかない。 「てっきり、打ち上げに行くのかと思って・・・」 音羽は小声で 「友達が言ってました。たくさんの人とお付き合いしている人は、本命がイブで、クリスマス当日が二番目で、イブの前日が、三番目だそうです。私は・・・最後じゃなくて良かったです。フッン!」 「だから・・・・勘違いした。悪かった。俺には二番目も三番目もいない! 音羽だけだから」 音羽は、更に嫌味っぽく 「イブの日に、フィアンセ放っといて、打ち上げなんて行く人の顔が見たい・・・・」と言ってきた。かなり怒ってる・・・ 俺は必死に、音羽の機嫌を直そうと、片膝付いて、 俺に背を向けている彼女と、同じ目線になろうとしゃがみ込んだ。 「オ・ト・ハ~~、悪かった! 謝るから、こっち向いてくれ」 「向いたら、何か良いことありますか?」 「ある! リウニョーネのフルコース料理が待っているし、デザートはアイスクリーム多めにしてもらおう! どうだ?」 「いいですね♪」 と、全身をピアノ椅子からクルッと俺の方へ向けた。 10cmも離れていない距離に、音羽の顔がひょいと現れた。 俺は思わず、何も考えずに、抱きしめてキスをしてしまった。 その瞬間、舞台のダウンライトも消え、その場が真っ暗な闇になった。 これだけなら、俺にとって、もってこいのシチュエーションなのだが・・・ 「閉館時間になりました。まだ館に残っている方は、至急裏口からお帰りください」と、場内アナウンス・・・ 慌てて顔を離して、音羽の手を引いて、楽屋口へと急いだ。 いつもながらの大きな荷物を抱え、タクシーに乗り込んだが、何故か二人ともバツが悪く、黙りこくっていた。 私(音羽)の頭の中はクルクル回っていた。 あれは何? キス? 事故? 初めてのキスが真っ暗闇の中? 何がどうなっているのか分からないうちに終わった・・・・
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