クリスマス・イブ 「リウニョーネ」で

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クリスマス・イブ 「リウニョーネ」で

リウニョーネでタクシーを降り、クリスマス飾りで華やかな店のドアを開ける。 玄関先には、小さいブルーのイルミネーションで、落ち着いた光を放っているクリスマスツリーがあった。 店の奥から辰巳が慌てて出て来た。 「いらっしゃい! 今日は素敵な時間を! と言いたいとこだが・・・参ったよ! 子供が風邪ひいて、理恵が助っ人に入れなくなった。 輪をかけて厨房の見習いシェフも、階段から落ちて、足捻挫だよ」 「そりゃ大変だなぁ」 「理恵って?」 「優馬のカミさんだよ。忙しい時だけ手伝いに来るんだ」 辰巳は申し訳なさそうに 「悪いけど、奥の席で、時間掛かるけど待ってって」 席に着いたが、店内も厨房もてんてこ舞いになっているのが見えた。 突然、音羽が「パンを一つ頂けますか?」 辰巳は「あっ! そうだね。ちょっとパンで、お腹もたせていてね」と パン籠にフランスパンを入れて持ってきた。 「腹ペコでは戦に勝てず!」と言ってパンをムシャムシャ齧って 「恭平さん! 何してんですか? 早くパン食べて行きましょう」 「へっ? 何処へ?」 「何処へって? 厨房ですよ。私、これでも料理得意なんです。何かお手伝いできることがあるかもしれません」 「料理と言っても・・・家庭料理とプロの料理では・・・」 厨房を覗いた音羽は 「あっ! 恭平さんは、あそこにグラスとお皿が溜まっています。あれなら誰でも出来ますよね?」 「え~~~? 皿洗い、俺するの?」 テキパキ進める音羽に連れられて、厨房に入る。 辰巳もビックリしながらも、猫の手も借りたいと、喜んで二人にギャルソンエプロンを渡してきた。 そして、 「うちの食器、RICHARD GINORI なんだから、割るなよ」 と、わざとプレッシャーをかけてきた。 意地悪なやつだ! 2・3枚割ってやるか! とんだクリスマス・イブになりそうだ・・・ 厨房では、慣れた手つきの音羽に、シェフが盛り付けまで教えている。 「いやぁ! 見習いよりずっと使える。ここで働いてよ!」 と褒めていた。 俺は・・・皿と、かれこれ1時間以上格闘している。 厨房が、少し落ち着いた頃、音羽は客席に出て、レモンウォーターのお代わりを、メリークリスマス♪ と言いながら楽しそうに、席を回って注でいた。 その時、店に入って来たカップルが、喧嘩をしだした。 どうも俺と同じで、ディナーの予約をしていなかったらしく、彼女に酷く怒られていた。 男は、何処行っても断られたらしく、何とかならないかと辰巳に、手を合わせていた。 それを見ていた音羽は、急に俺の所に来て、 「今日はディナー、コースでなくてもいいですよね? シェフに美味しいオムライスお願いしますからね」 「はぁ? 何でオムライス?」 と言う言葉も聞かずに、もう、辰巳に何か話している。 「えっ?音羽ちゃんそれで良いの? 悪いね。じゃあ、お客様にそう話してくるよ。きっと、喜ぶよ! ありがとう」 何が何だか分からないうちに、さっきのカップルが俺と音羽の席に座っている。 女性の方は、つい今しがたまで、泣きそうだった顔から、溢れるような笑顔でコース料理の説明を聞いている。 音羽もそのカップルを見て、嬉しそうにしている。 俺も、やっと事情が呑み込めた。 音羽・・・オムライス大盛にしてもらおうな♪ ディナーは控えめだったが、目に見えない大切なものを、たくさん貰った一日になった。 そして、最後に慌ただしくて忘れるところだった、クリスマスプレゼントに買ったティファニーのオープンハートのネックレスを、音羽の手にそっと乗せた。 潤んだ瞳でジッと俺を見て「ありがとう♪」と、そっとキスをしてくれた。 音羽からのキスは俺にとって、最高のプレゼントだ。 それは暗闇の中のキスよりも、ずっと甘かった。 俺は、こんな甘い関係が、ズッと続くと思っていたが・・・
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