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決心
「リウニョーネ」で、馬鹿話をした翌日。
新庄から電話で、さんざん音羽のことを、これからどうするのか、もっとちゃんと考えろと言われた。
結婚を前提に交際するなら、問題が色々ありすぎるが、ちゃんと彼女の納得のいくように、次、会う前までには解決しておかなければと思っている。
それにもう一つ、俺にはけじめをつけなければならない課題があった。
取り合えず後者を先に片付けようと、一本の電話をかけた。
「あっ、俺。ちょっと今いいか?」
「珍しいわね、貴方から電話なんて!」
相手は半月前まで付き合っていた 水樹碧
付き合っていたというよりは、仕事先のパーティーで知り合い、その後、何となく食事に行ったり、流れでホテルに行ったりすることが、1年くらい続いていた。
彼女は小さな会社を立ち上げている経営者でもある。
彼女も俺も、結婚とか恋愛に大して執着のない大人の関係であった。
と、俺は思っていた。
だから俺は簡単に
「もう、会わないから・・・そのつもりで・・・」
「えっ? 何その言い方? 理由もなしにいきなり?」
やっぱり、面倒くさくなるかぁ~・・・なら正直に言うしかないか。
「俺・・・結婚したい子できたから・・・会えない」
暫く沈黙があり・・・
「へぇ~・・・結婚願望なんてあったんだぁ? そう! じゃぁ・・・私、結婚しようなんて思ってなかったから・・・」
と言って強気な言葉で電話は切れた。
碧には悪いが、ほっとした。
これでいいんだ。次に進まなければいけない。
音羽とドイツ料理を食べ行くと約束をした日。
新庄と俺は、新庄の愛車・真っ赤なBMWで、音羽の学校の正門の前で待っていた。
「学校の前でこの車ちょっと派手じゃないか? 飲みに行くんだから、タクシーで良かったんじゃないか?」
「あっ、俺の彼女、銀座の近くに住んでいるんだ。そこの駐車場へ置いとくし、ドイツ料理食ったら、いなくなるから、お前しっかり話しをしろよ!」
「気使わせて悪かったな。色々助かったよ」
と言ったら
「恭平は、女に優しくないし、全然女のことが分からないからなぁ~。
音羽ちゃん泣かせるなよ」
「あ~」
と小声で答えて苦笑いでごまかした。
門の遠くから、楽器ケースを抱えて、バタバタ走ってくる幼児のような音羽が見えた。
手を振って車の方に呼んだ。
「うわぁ〜♪、可愛いい車」
「でしょ? こいつはいい歳こいて、この色はないなんて言うけど、女の子には人気なんだよなぁ!」
雑談をかわしてから車に乗ろうと、新庄が音羽を、助手席に座らせようとした。
俺は、その手を振り払って、一緒に後部座席に座らせようとしたその瞬間・・・他の男の手が、音羽を捕まえてた。
その男は
「音羽! 何やってんだ! 知らない男の車なんかに乗るんじゃない!」
と、すごい剣幕で怒鳴って来た。
「何だ? この男は?」
俺たちはとっさに身構えて戦闘態勢に入った。
「違うの! 違うのよ! この人達は知り合いよ!」
と、音羽が言い、その男を引っ張って、少し離れた所で話を始めた。
何だぁ~ 音羽の知り合いかと、安心し腕組して、車にもたれ掛かっていたら、いつの間にか車の周りには、ぐるっと数十人の男達が、俺たち二人を睨んで囲んでいた。
新庄が
「何々? これどういう事?」
俺も「さぁ~?」
と、首を傾げ、音羽の成り行きを見守るしかなかった。
暫くして、怒鳴って来た男が音羽と一緒に、こっちへやって来た。
そして、
「すみませんでした。僕は音羽の学友で、橋本 純と申します。学校の前に派手な車が止まっていて、音羽が絡まれているらしいと聞いたもんで・・・」
と頭を下げた。
そのとたん、車の周りに居た男達も、頭を下げ散っていった。
俺は何だかよくわからないが、この男達は、音羽を心配しての行動だとわかり、俺の名刺を渡して、安心してもらう事にした。
車に乗ってから、詳細を聞くと、以前、音羽が、道を尋ねられた男に、案内しようと一緒に歩き出した所、強引に車に引っ張り込まれたことがあったそうだ。
その場にいた学友に助けられ、無事だったと言う経緯があり、男子学生がいつも気にかけてくれているということらしい。
音羽は
「道案内するのも警戒しなくてはならないって、悲しいですね」
とボソッと言った。
新庄が俺に、こそっと
「ここの男子、全部敵にまわしかねないぞ? 覚悟しとけよ!」
と笑った。
「あ~~そうだな、ボクシングでも習っておくか!」
まじでそう思った。
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