家族

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家族

銀座のローマイヤ―で、3人で、ドイツ料理を堪能する。 素朴なソーセージもなかなか旨かったが、ローストビーフは絶品だった。 だが、やっぱりドイツはビールが一番であると思う。 音羽は、成人してからも、酒を飲む機会が少なく、ビールの味は良く分からないと言う。 飲む機会は、半年に1回くらい、学校の前で、怒鳴りこんできた純と言う学生の主催で、女は何故か音羽だけらしい。 他は男子ばかり10名ほどが(音楽をかたる会)と称して、集まっている飲み会だと言う。 音羽は門限があるので、8時には帰るらしいので、その後は何をしているのかは知らないと言う・・・ んっ? 何の会だ? 俺は彼女には、フルーティーな香りで酸味があり、苦みの少ないビールを勧め、俺はスモーキーな独特な香りのシュルンケルラ・ラオホ・メルツェンを頼んだ。 新庄はスッとした口当たりのリーゲレ・ヘレンピルスを頼み、ワインに直ぐ切り替えた。ワインの方が好みなのだ。 話題の中で、音羽はミュ−ジカルが大好きで、歌と踊りは(キャッツ CATS)が一番好きだと言い、その中でも(メモリー Memory)はいつ聴いても涙が零れそうになると・・・それには何か理由があるらしいが、 「今は・・・まだ話そうとすると、涙が・・・」 と言いながらも泣きだしそうな顔をしたので、今はそれ以上は聞かないことにした。 今度、落ち着いたら聞いてみよう。 ストーリーとしては、DVDで観たサンドオブミュージックが大好きだと語った。 大きい映画館のスクリーンで観たかったが、今は、何処もやっていないので残念だと。 「私、楽しい(ドレミの歌)や、ザルツブルグの音楽コンクールで歌う、祖国オーストリアを思う美しいメロディの(Edelweissエーデルワイス)もとても好きなんですけど、一番好きな曲は、最後の場面で、ナチス占領下になってしまった故郷オーストリアから、厳しいけど美しい山々のアルプスを一家で越えて、スイスへ亡命する途中、後ろを振り返った時にバックで流れる (すべての山へ登れ  Climb Ev'ry Mountain)なんです。 山々の雄大な景色と、マリアとその夫の大佐と7人の子供達。 困難から、新しい世界への希望に繋がる曲に思えて・・・ 家族の勇気と絆に、胸いっぱいになりました。父親を信じて信念を貫き、困難に立ち向かう姿は感動です。 私もあんな素敵な家族を作れれば・・・うちの父も以前は・・・」 と最初は饒舌に喋っていたが、父親の話になったとたん、口を詰んだ。 少し酒が入っているせいか、ほのかに赤らんだ顔で、俺の顔を潤んだ目でジッーと見つめてきた。 「確か、この話は第二次世界大戦の実話だったよな? 故郷を去らなければならないって・・・辛いなぁ」 俺ももちろん、そんな家族が持てれば素敵だと思う。 ここがレストランではなければ、俺は思わず抱きしめていたに違いない。
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