クリスマス・イブ

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クリスマス・イブ

近年、クリスマス・イブは、恋人が素敵なレストランで食事をし、その後、愛を確かめ合う大切な日らしい・・・ 音羽は恭平と、銀座で誓った日から、連絡は取り合ってはいるが、恭平からその日のお誘いが一向にない・・・フィアンセ? 恋人? それともそう思ってないってこと? と、不安に思っていた。 音羽も、確かに、クリスマス・イブの日は午後6時まで、ボランティア活動で、施設の子供や老人会の老人達を招待して、クリスマスコンサートを開いているので、忙しいとは言ったが、夜は何もないと、言ったはずだ。 暫くして、恭平から、仕事で午後までは忙しいが、コンサートの終わるまでには、そちらへ向かう。と、嬉しい連絡が入った。 密かに、コンサートの後は、きっと美味しいレストランを用意してくれているのに違いないと期待していた。 俺は、ギリギリコンサートの終盤に間に合った。 音羽は、コンサートでは、赤い帽子に赤いミニスカート・そして赤いブーツを履いていた。 まるでTDLのキャラクターのような恰好をして、クリスマスソングを歌い、ヴィオラ片手に飛び跳ねていた。 その後ろを子供達が、楽しそうについて回っていた。 音羽にはとても似合っている光景だ。 踊っている音羽と目が合った。彼女はウインクをしてきた。 可愛い~い! 俺はウインクは返せなかったが、うなずいた。 コンサートが終わって、ロビーに出た時、バタバタと関係者らしき一団が、 「早く片付けて打ち上げするぞ~」 と言っていた。 そうか? これから打ち上げするのか? 彼女も行くんだろうから、ディナーは明日に変更するか? と、考えていたところに、音羽が赤いドレスのまま走ってきた。 「可愛いサンタレディーだったな」 「クリスマスはいつもこんな格好するんですよ。ちょっと恥ずかしいけど、楽しいです」 「これから打ち上げなんだろ? 俺に遠慮しないで行って来ていいから。ディナーは明日にでも変更しよう」 「えっ? えっ?」何か言いたそうだったが、騒がしく帰宅を急ぐ周囲に押されて離れてしまったので、 「じゃあ、また後で連絡する」 と言って別れた。 音羽は呆然と立ち尽くしていた。何で?? 今日じゃないの?? トボトボ歩きながら・・・どうして明日になるのか理解できず、足は舞台のピアノに向かっていた。 ジャジャジャジャーン・ジャジャジャジャーン・・・何故か激しく(運命)を弾いていた。 俺は、クリスマス・イブのレストラン予約が、困難だとは知らなかつた。 音羽が喜びそうなレストランは、すでに満席で予約ができず、何とか友人の辰巳の所に頼み込んで難を得た。 予約を明日に変更してもらおうと、コンサートホールの外に出て、電話をしようとした。 そこに、音羽と一緒にバイオリンを弾いて、踊っていた女性が通った。 「お待たせ~、ディナー早く行こう♪」 と彼氏らしき男と腕を組んで歩き出した。 「ごめん、君、音羽のオーケストラー仲間だよね」 「えっ? はい、そうですけど」 「今日はこれから打ち上げがあるんじゃないの?」 「打ち上げ? あ〜それなら、彼女のいない男の子がやってるけど、女子は行かないですよ。あれ? 音羽も、今日は彼とディナーだって喜んでいたけど・・・」 まずい! 俺は、急いでホールの閉まる扉に飛び込んだ。
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