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はじまり
鈍色空の2月20日の朝、いつも通り7時45分発の地下鉄に乗り、昨日わずかに降りつもった雪道を、まだ足跡が残されていない場所を選びながらざくざくと歩き、何の問題もなく俺は高校に辿り着いた。それなのに、生徒の明るい声が響く騒がしい教室に入ってすぐ、胸がつぶれる思いがした。
「あ、楢川、おはよ! ねえ、紗綾が柏木君と付き合うことになったらしいよー?」
廊下側の最前席に座る仲野さんが明るく俺に話しかけて、窓側にいる2人を指さす。紗綾は照れくさそうに俺に小さく手を振る。紗綾の隣にいる柏木は軽く会釈した。
俺は目の前で起きている出来事に唖然とする。柏木に柔らかく微笑みかけるその優しい横顔を見て、俺は心の中で問いかける。
何でだよ、早川紗綾。転校生の柏木とは知り合ってまだ1週間のはずだろ?
膝から崩れ落ちそうになる。
俺はお前の幼なじみなんだぞ?
なのにどうして紗綾は、そっちを選んでいるんだよ……?
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