俺様

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俺様の、午後の憩いのエリアは 3丁目の一角を占める、町工場と、 その工場主のお屋敷である。 耳障りではない規則的な音が、日の明るいうちは 絶え間なく響いていた。 言うなれば、妖怪小豆(あずき)洗いが、小豆を洗っているような、じゃらんじゃらんとした音だが、 (俺様は、妖怪に何度も遭遇したこともあるのさ!) しかしながら、何日も聞いていれば分かるだろう、 それはただ周囲に向かって、 工場の存在をアピールする為にだけ、 奏でられている音であることが。 もう、いつからか忙しく立ち働く人々の気配は この工場からは、すっかり消えている。 栄枯盛衰、盛者必衰、、、そんな四文字熟語と、 かつて、この場所で何か役立つ物が生産されて 社会に送り出されていたという名残りの栄光と、 矜持、、、そんなものを 感じるのは俺様だけでは無いだろう。 物見高い近所の人間達だって、とっくに 察しているに「ちげーねぇー!」 2年前の今頃、 その工場主の屋敷で飼われている、おっとりした ゴールデンレトリバーの老嬢を 揶揄ったことが有った。 老嬢の縄張りである、和風建築の一戸建ての敷地に 白昼堂々侵入し、 縁側と、離れに面した庭の、 曲がりくねった松の木や、何種類もの樹木や 石灯籠に次々と飛び移って、身軽さを 誇示してみれば、 わんわん吠え立てながら俺様の振る舞いを 阻止しようと、しゃしゃり出て来た図体だけは 立派な老嬢。 その女に俺様は最後、 実戦で培った貫禄の違いを見せつけてやったのだ。 庭内で一番、背の高い木の枝に辿り着いた俺様は、 同じく、その幹の根元で追い詰めたとばかり、 ぎゃんぎゃんと騒ぎ立てるその(おんな)に、 俺様の体内から出でる、光り輝くシャワーを 浴びせるという力技を見舞って、ジ・エンドに 持ち込んだ。 飼い主もこれまた老嬢で、箒を手に すっ飛んで出て来て、 「ウチのココちゃんに何するのっ!!」って 大騒ぎしていたっけ。 「ココちゃんっ大変!すぐにお風呂よっ!」 今から思えば、 住む世界の違う、静かにお暮らしの老嬢方相手に、 失礼にも程があるだろうと解るのだが、 それぐらい、当時の俺様ときたら、 無茶振り上等、天下無敵のアウトロー気取り だったのだ。 、
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