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人間達は近々に、この資材置き場含め、工場を
取り壊す為の算段を交わしているのだった。
使われなくなった建物は、驚くほど顕著に
衰えを示し始めて、隙間風が始終忍び込み、
雨漏りと壁の亀裂は日増しに激しくなってゆくが、
都会の片隅で生きる動物達にとっては、
有り難い休憩所が見つかったようなもので、
たった今も、ネズミが
壁穴から、ひょこっと顔を出したばかりだ。
俺様はその時、背中を思い切り反らせて
ヨガでいうところの
「猫のポーズ」を嗜んでいたのだが、
習性には抗えずネズ公に飛びかかりそうになるのを
必死に堪えた。
それなのにネズ公は人間達の後ろを大胆にも、
すばしっこく横切った。鈍な人様にだって、背中に眼が付いている奴はいる。
音はしなくても、気配を感じ取るや、
「うわーネズミだよ!」と騒いでいる。
ミステリアスな身軽さにめっぽう、
気を良くしていた俺様だが、ネズミに反応しておいて、俺様には気がつかないとは、なんでだよ人間?
みたいな思いに次第に、囚われ始めた。
そうこうするうちに1人が、畳んだ段ボールが
積み上げられた片隅までやって来た。
その内の、壁に斜めに立て掛けられた、
一枚の段ボールの影で眠るその猫を
発見してしまい、その途端「ぎゃー!」と叫んで、
のけぞった。
「どうかなさったの?」と、タイミングを
合わせたように、あの老嬢「ココちゃん」の
飼い主である婦人が、現れた。
2年前、箒を振り翳して俺様を退治しようとした、
あの婦人である。
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