six

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「会社のことなんて関係なく、君には伊春の側にいてもらえたらと思っていたんだ。君のご家族にもそう伝えたんだけど、それは申し訳ないからと言われて……」 「そうか……婚約破棄を申し出たのは、うちの方だったんですね……?」 伊春のご両親が静かに頷く。ずっと、志賀原家の方から婚約の解消を言ってきたのだと思い込んでいたけど……違ったんだ。 そういうことなら確かに、母がこの間、俺と伊春のことであんなに泣いていたのも頷ける。 「それでもせめて、うちで出来る援助はさせてほしいと言ったんだ。必ず全額返しますからと、今でも少しずつ返してもらっているけれど」 「そ、そうなんですか……? 父は、そんなこと一言も……」 「そうか。これ以上、尚君に心配かけたくなかったんだろうね」 「……はい」 家族なんだから、もっと何でも話して、甘えてくれて良かったのに……。 でも俺も、勝手に親に気を遣って伊春との同居を内緒にしていたわけだし……親のことだけ言えないよな。 「……それにしても、伊春は俺と出会った時からとてもフレンドリーで、その……心を閉ざしていたり、愛想笑いしてるようには見えませんでした」 「ははは。きっと、尚君には初めから愛想笑いなんかしていなかったんだよ。もしかしたら出会った瞬間に、尚君に運命的なものを感じていたんじゃないだろうか?」 「運命……?」 「なんてね」 「ははは」
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